薬物の体内動態に男女差が存在することが近年明らかになり、それが薬物の効果や副作用発現の男女差に関係している可能性が示唆されている。薬物動態の男女差の一因は薬物代謝酵素発現の性差であり、メカニズム解析は性に起因する影響を予測し有害作用回避に向け有益な情報を与えると期待される。そこでCYP3Aの雌性優勢発現のメカニズム解析を、マウスCyp3a41遺伝子をモデルとして実施した。 H26年度はメス特異的転写に重要な領域(-99/-87)のクロマチン構造の雌雄差に注目し、その差を生じさせる因子の同定を目指した。その結果、マウス肝細胞へのグルココルチコイドホルモン(GCH)暴露がその領域のクロマチンを弛緩させる事が明らかになり、GCHがエピジェネティック調節を介してメス特異的発現に関わる事が示唆された。 以降に研究期間全体を通して明らかになった事をまとめる。Cyp3a41遺伝子のメス特異的発現は、近位プロモーターHNF4α結合領域(-99/-87)のクロマチン構造の雌雄差が一因と考えられる。その領域では、クロマチンの濃縮と転写抑制に関連するヒストンタンパク修飾はオスで優位となり、転写促進に関連する修飾はメスで優位となっている。その修飾によりその領域はオスよりメスでクロマチンがより弛緩した状態となり、転写促進因子HNF4αがオスよりメスで多く結合し、より強い転写を引き起こすと推測される。クロマチン構造の弛緩にはGCHによって活性化される機構が関与すると考えられる。HNF4α結合領域はGCH応答性を示す事もこの可能性を支持している。また、その領域には転写因子COUP-TF2が促進的に作用し、HNF4αとの協調的調節がメスの肝細胞にのみ観察され、その機構もメス特異的発現の一因と考えられる。以上よりCYP3A遺伝子のメス優勢発現はエピジェネティックに調節されている事が明らかになった。
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