研究課題/領域番号 |
23590180
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
奥田 真弘 三重大学, 医学部附属病院, 教授 (70252426)
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研究分担者 |
岩本 卓也 三重大学, 医学部附属病院, 准教授 (30447867)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メトトレキサート / 有機アニオントランスポータ / サイトカイン / リポポリサッカライド / 腎尿細管 / 腎クリアランス / 尿細管分泌クリアランス / 炎症 |
研究概要 |
炎症時におけるメトトレキサートの腎排泄挙動変動とその要因解明を目的とし、LPS投与ラットを用いた解析を行った。Wistar系雄性ラット(9週齢)にLPSを腹腔内投与することにより炎症ラット(以下LPSラット)を作製した。In vivo 全身クリアランス実験は大腿静脈からメトトレキサート(5 mg/kg)を瞬時投与後、大腿動脈から経時的に採血し、薬物を高速液体クロマトグラフィーにて測定した。In vivo 腎クリアランス実験は、瞬時投与と持続注入により定常状態に達したラットから採血、採尿を行った。同ラットより腎臓を摘出し、薬物の血漿中濃度、尿中濃度、腎組織中濃度を測定した。摘出腎から粗膜画分を調製、rOAT1またはrOAT3の特異抗体を用いてWestern Blot分析を行った。In vivo全身クリアランス実験において、LPSラットメトトレキサートの血中濃度-時間曲線下面積が約2倍に上昇し、全身クリアランスは約1/2に減少していた。LPSラットの中心コンパートメントからの消失速度定数はShamラットに比べて有意に減少していたが、分布容積に差は認められなかった。In vivo腎クリアランス実験において、LPSラットのGFRはShamラットに比べて約1/10に低下していた。メトトレキサートの腎クリアランスはShamラットに比べて顕著に減少し、糸球体ろ過速度および尿細管分泌速度はそれぞれ約1/8、約1/17に減少した。薬物の腎組織/血漿中濃度比は約60%に減少しており、管腔中への排泄クリアランスは約20%に減少していた。腎粗膜画分におけるrOAT1、rOAT3、rMRP4のタンパク質発現量は、LPSラットではShamラットに比べてそれぞれ53%、70%、85%に減少した。これらから、炎症時におけるメトトレキサートの腎排泄遅延の一因に腎尿細管薬物トランスポータの関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は、炎症性疾患モデルラットにおける有機イオントランスポータの腎発現変動に関する解析、及び炎症性モデルラットにおけるイオン性薬物の全身動態及び腎クリアランスの解析を実施する予定になっていた。実際に、リポポリサッカライド投与(4 mg/kg)により作製した炎症モデルラット(LPS ラット)を作製し、摘出腎から抽出した粗膜画分を用いて、OAT1及びOAT3の発現量をウエスタンブロッティング分析で解析した。また、LPS ラット有機アニオントランスポータの基質であるメトトレキサートを静脈内投与し、薬物の全身クリアランスをSham ラットと比較し、定常状態におけるアニオン性薬物の腎クリアランス及び尿細管分泌クリアランスを測定することで、炎症モデルラットにおけるメトトレキサート腎排泄クリランスの低下における有機アニオントランスポータの役割を示唆できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は以下の検討を進める。1. ラット腎スライスを用いた免疫組織学的及び薬物動態学的解析炎症モデルラットから腎スライスを作製後、有機イオントランスポータに対する特異抗体を用いて組織切片を免疫染色し、発現状況並びに側底膜及び刷子縁膜への局在化を蛍光顕微鏡にて観察する。また、ラット腎スライスについては3H-メトトレキサートの腎組織内への取り込みを速度論的に解析し、薬物トランスポータの発現量との相関を解析する。さらに、トシリズマブ(IL-6 の受容体抗体)、エタネルセプト(TNF-α 阻害剤)を投与したラットから抽出または作製したmRNA、粗膜画分並びに腎スライスを用い、有機イオントランスポータの発現量及び薬物動態学的解析を行い、結果を比較精査することで、これらの分子標的薬による薬物動態学的相互作用の発現可能性を検証する。2. 培養上皮細胞及び単離浮遊尿細管を用いた薬物輸送、並びに薬物トランスポータの発現・機能変動解析有機アニオントランスポータを発現するフクロネズミ腎由来のOK 細胞、またはラットよりコラゲナーゼ灌流法により単離した浮遊近位尿細管に、炎症性サイトカインのTNF-α 及びIL-6 を暴露し、3H-メトトレキサートの輸送特性を比較する。OK 細胞は、プラスチックディッシュ及び多孔性フィルター上に単層培養したものを用い、薬物の経細胞輸送と細胞内蓄積量の同時測定により薬物輸送の方向性を検証し、血管側膜(側底膜)と管腔側膜(刷子縁膜)における輸送プロセスの精密解析を実施することで炎症性サイトカインが各々のトランスポータに及ぼす影響を明らかにする。また、必要に応じてヒト有機イオントランスポータ発現細胞を用いた解析を合わせ行う。さらに、有機アニオントランスポータのプロモータ活性に及ぼす炎症性サイトカインの影響の解析に備えて、プロモータアッセイ系の構築を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記実験に必要な備品、消耗品、及び旅費に研究費を充当する。具体的には、プロモータアッセイ系構築のため、ルミノメータを購入する。また、ラット腎スライス及び培養細胞系を用いた薬物輸送実験のため、実験動物、培養器具(ディッシュ、ピペット)、培養液、サイトカイン関連薬物等の購入を行う。さらに、研究成果の発表と資料収集のため、本学から学会会場までの旅費を支出する。なお、平成23年度の研究計画の一部に、確認実験の不足により未使用金が生じたため、平成24年度の研究計画と合わせ実施し完遂する。
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