研究課題/領域番号 |
23590181
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
檜垣 和孝 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (60284080)
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研究分担者 |
木村 聰城郎 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 特命教授 (10025710)
大河原 賢一 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30291470)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腸神経系 / 消化器疾患 / セロトニン / 有機アニオン系薬物 / 分泌 / Caco-2 / Mrp2 / BCRP |
研究概要 |
近年、様々な消化器疾患に腸神経系(ENS) が関与していることが報告されており、病理学的、薬理学的観点からも、ENSと消化器疾患との関連性の解明が重要視されている。薬物治療の観点からも、疾患時の薬物吸収挙動の変化とその機構解明は極めて重要となる。本年度は、有機アニオン性化合物に着目し、その吸収性を左右していると考えられる小腸管腔中への分泌特性について評価を進めた。モデル化合物として、難吸収性の有機アニオン性色素phenol red (PR)を用いた。まず、ヒト大腸がん由来のCaco-2細胞を用いて、PRの膜透過の方向性を検討した。算出した見掛けの膜透過係数Pappは、分泌方向が吸収方向の約2.7倍を示し、分泌方向優位な輸送が明らかとなった。次に、この分泌方向優位なPRの輸送を担っている輸送担体について検討するため、種々の基質による阻害実験を行った。Mrp2の基質であるプロベニシド、インドメタシンを共存させたところ、PRのPappをいずれも約40%に有意に低下させることが明らかとなり、PRの分泌方向の輸送にMrp2が関与していることが示唆された。次に、BCRPの基質である、ノボビオシン、ミトキサントロンの影響を検討した。その結果、ノボビオシンはPRの分泌に影響を及ぼさなかったが、ミトキサントロンはPappを約60%にまで、有意に抑制することが明らかとなった。両基質による阻害効果の相違は、BCRPに対する親和性の差が原因であると考えられるが、PRの分泌方向の輸送にBCRPが関与していることが示唆されたと言える。これらの結果は、有機アニオン系薬物の小腸からの吸収に、Mrp2およびBCRPが抑制的に関与していることを示唆しており、有機アニオン系薬物の吸収性の変化を評価する上において、両輸送担体の活性変動を評価することが重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
難吸収性色素phenol red (PR)を有機アニオン性薬物のモデル化合物として、ヒト大腸がん由来のCaco-2細胞を用いて検討を行い、Mrp2及びBCRPを介した分泌が、PRの吸収に対して有意に影響していることを示すことに成功した。また、ラットの単離小腸粘膜を用いた検討においても、これら輸送担体の寄与を示唆するデータが得られており、有機アニオン性薬物の小腸からの吸収に、輸送担体を介した分泌が重要な影響を及ぼす可能性を示すことができた。また、セロトニン枯渇ラットにおける評価にも着手し、一部、結果が得られている。さらには、セロトニン症候群モデルラットの作製にも目処がたっているなど、全体的に、概ね、計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
近年、様々な消化器疾患に、ENS異常が関連していることが示唆されている。中でも、消化管粘膜におけるセロトニン代謝異常の重要性が指摘されており、新規治療薬の開発も、セロトニン受容体を標的としたものが盛んに行われている。過敏性腸症候群、炎症性腸疾患では、粘膜中のセロトニン含量が少ないことが、逆にセリアック病やカルチノイド発症時やシスプラチン投与時に見られる消化器障害には粘膜中セロトニン含量が高いことが知られている。既に、申請者らは、セロトニン枯渇ラットの作製に成功し、粘膜中セロトニン含量が低い時の薬物吸収挙動について検討を始めている。そこで、今後は、セロトニン枯渇ラットにおける有機アニオン性薬物の吸収動態を解析し、その変動を評価するとともに、既に、その関与が示唆されたMrp2、BCRP活性の変化についても、活性、発現タンパク量の両面から検討を進める。また、これまで、小腸粘膜、或いは上皮細胞を用いたin vitroでの検討であったので、in vivoにおける吸収動態の検討を行う予定である。具体的には、引き続きPRをモデル化合物として、その経口投与後の吸収動態を解析し、有機アニオン系化合物の経口吸収動態に及ぼすセロトニン枯渇の影響を明らかにする予定である。また、セロトニン症候群モデルラットにおいても、受動拡散による薬物吸収、P-gpやPEPT1などの薬物吸収に影響を及ぼす可能性のある輸送担体の活性変動など、in vitro実験、またin vivo経口投与実験を通じて検討する予定である。具体的には、受動拡散による吸収は、アンチピリン等を経細胞経路マーカーとして、FITC-dextran 4を細胞間隙経路マーカとして評価する。また、P-gp、PEPT1活性については、それぞれ、キニジン、セファレキシン等をモデル薬物として用い、活性変動の可能性を明らかにする予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度からの繰越額 \192,366と24年度支給予定額 \800,000を利用し、薬品、実験動物 (ラット)など、消耗品の購入に充てる予定である。檜垣 (\192,366 + \575,000) 大河原 (\225,000)
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