研究課題/領域番号 |
23590182
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
永井 純也 広島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (20301301)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アミノグリコシド系抗生物質 / エンドサイトーシス / メガリン / ゲンタマイシン / 腎近位尿細管上皮細胞 / HK-2細胞 |
研究概要 |
ヒト腎近位尿細管由来培養細胞HK-2は、腎近位尿細管上皮細胞の特性を良好に保持していることが報告されており、in vitroモデル細胞系として汎用されている。また、アミノグリコシド系抗生物質(AG)の腎尿細管取り込みに重要とされるエンドサイトーシスレセプターであるメガリンの発現が報告されている。しかし、HK-2細胞におけるAGの取り込み機構は不明である。本年度は、HK-2細胞を用いて、代表的なAGであるgentamicinの取り込み特性について解析した。 まず、我々が使用したHK-2細胞(ATCCから購入)における腎近位尿細管上皮細胞としての機能および発現特性について調べた。その結果、D-[3H]glusoceの取り込みはNa+依存性を示し、また、SGLT1、SGLT2のmRNA発現が認められた。さらに、P-糖タンパク質のmRNAおよび輸送活性が見られた。そこで、メガリンのmRNA発現についてRT-PCR解析を行ったところ、30サイクルではバンドは全く検出されず、35サイクルにおいて微弱なバンドが観察される程度であった。従って、本研究で用いたHK-2細胞は比較的良好に近位尿細管上皮細胞特性を保持しているものの、メガリンの発現レベルは高くないことが示された。 そこで、本細胞における[3H]gentamicinの取り込み解析を行ったところ、温度および時間依存的な細胞内取り込みは観察されたものの、エネルギー代謝阻害剤、エンドサイトーシス阻害剤およびメガリンリガンドによる影響を受けなかった。従って、我々が用いたHK-2細胞における[3H]gentamicin取り込みはエンドサイトーシス非依存性経路を介することが示された。 現在、HK-2細胞における[3H]gentamicin取り込みを担う分子の実体について解明するため、カルシウムチャネル阻害剤の影響などを含め、解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、ヒト腎近位尿細管由来HK-2細胞を用いて解析を開始したが、既報論文などの情報とは異なり、我々が使用したHK-2細胞におけるメガリンの発現レベルは顕著に低かった。しかし、メガリンの発現が低かった本細胞において、エンドサイトーシスを介した[3H]gentamicinの取り込みは観察されなかったことは、エンドサイトーシスによる[3H]gentamicin取り込みにはメガリンが重要であることを間接的に裏付ける結果であると考えられた。 その一方で、本HK-2細胞においてエンドサイトーシスに依存しない[3H]gentamicinの取り込み機構が存在することが観察されたことに加えて、その取り込みにカチオンチャネルが関与する可能性が示唆されたことから、これまでエンドサイトーシスのみで説明されてきたgentamicinの腎移行に新たな経路が存在する可能性が見い出されつつある。エンドサイトーシス以外の経路を明確にすることが出来れば、アミノグリコシド系抗生物質による腎毒性をより効果的に防御するための方法の開発につながると考えられる。 このような研究状況を鑑みれば、アミノグリコシド腎毒性防御法の最適化を目的とする本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降においては、初年度の研究において見い出された、HK-2細胞におけるエンドサイトーシス非依存性の[3H]gentamicin輸送を担う分子実体を明確にするための解析を中心に行う。具体的には、各種カチオンチャネルの選択的アゴニストおよびアンタゴニストの影響について検討することで、[3H]gentamicin輸送に関与するチャネル分子の同定を進める。また、そのチャネル分子の関与をより明確にするために、siRNA処理による遺伝子ノックダウンの影響も検討する。加えて、多孔性フィルターを有するTranswell上に培養したHK-2細胞を用いて同様の検討を行うことで、エンドサイトーシス非依存性の[3H]gentamicin輸送が頂側膜側あるいは側底膜側のいずれの方向からの取り込みを反映したものであるかについて明確にすることを考えている。 さらに、マウスあるいはラットなどの実験動物を用いたin vivo実験を予定している。すなわち、各種カチオンチャネルの選択的アゴニストおよびアンタゴニストをアルベカシンとともに投与することで、アルベカシンの腎蓄積がどのように影響されるかについて解析を行う。In vitro実験とin vivo実験のそれぞれの結果を相互に比較しながら、アミノグリコシド系抗生物質の腎移行においてカチオンチャネルがどの程度関与しているのかについて考察を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述した研究計画に基づいて、次年度の研究費を以下のように計画する。「物品費」は主に各種試薬、[3H]gentamicinなどのアイソトープ、実験動物(マウスあるいはラット)、試薬類およびプラスチック・ガラス器具類の購入にあてる。「旅費」は、日本薬剤学会第27年会や日本薬物動態学会第27回年会などに参加する際の旅費にあてる。「人件費・謝金」には、論文投稿時の英文校正に対する費用などに使用する。「その他」は、論文投稿時および論文掲載時に必要な費用などの支払いにあてる。
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