研究課題/領域番号 |
23590185
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山内 あい子 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (30122253)
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研究分担者 |
佐藤 陽一 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 准教授 (10363160)
坂本 久美子 徳島大学, 大学病院, 薬剤師 (80403749)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 医薬品安全性情報 / データマイニング / ヒト毒性予測 |
研究概要 |
初年度は、研究実施計画1~3項目のヒトにおける医薬品安全性情報解析に関する基盤整備と基礎的検討を行った。1. 医薬品情報の収集とin silicoデータマイニングによる薬物のヒト安全性予測モデルの構築:医療用医薬品1,000個余について、薬物の安全性情報と化学構造や物理化学的性質に関する情報を収集し、独自のデータベース(DB)を作成した。さらに、薬物の乳汁移行性(M/P比)と胎盤移行性(F/M比)に関する情報を収集して、定量的構造活性相関(QSAR)解析手法をもとにクリニカルQSAR式を構築・検証し、成果を学会発表した。乳汁への薬物移行性の予測については、この分野の最近の動向をまとめて報告した(薬局,2011)。また、各薬物のヒトにおける4種の毒性(胎児毒性、肝毒性、腎毒性および発癌性)情報を収集・解析し、毒性の有無によって薬物を2群に分類して機械学習による情報科学的な毒性発現予測を試みたところ、各々、70%以上の予測精度が得られ、さらに解析を重ねている(学会発表予定)。 2.In vitro薬物胎盤通過性実験によるQSARモデル式の妥当性に関する検証:薬物のヒト胎盤通過性に関するクリニカルQSAR 解析理論をin vitro実験により検証する目的で、ヒト胎盤JEG-3細胞単層培養系を作成した。Apical側(母体側)からbasal側(胎児側)への薬物の移行を測定して薬物通過係数を算出することにより、ヒトF/M 比に対応するモデル実験系を構築した(医療薬学会にて発表)。妊娠母体環境に似た培養液条件下で、薬物のヒト胎盤通過特性を再現することができたので、さらに薬物数を増やすべく実験を継続している。3.薬剤師による医薬品情報提供活動に必要な医薬品安全性情報の調査:徳島大学病院にて、特に妊婦への医薬品安全性情報提供活動に必要な情報に注目して処方薬調査をしているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医薬品情報の収集とin silicoデータマイニングによる薬物のヒト安全性予測モデルの構築を目指して、医療用医薬品の副作用情報と化合物情報を収集し、DB化した。現在、新たな毒性予測パラメータとして、各薬物の代謝に関与する主な薬物代謝酵素に関する情報を追加しつつある。DB情報をもとに、薬物のヒトにおける胎児毒性、肝毒性、腎毒性、発癌性の4種類の毒性の有無を予測するためのサポートベクターマシン(SVM)による機械学習モデルの構築が順調に進んでいる。また、ヒトにおける薬物の乳汁移行性と胎盤通過性予測に関しては、有意なQSAR解析式が導かれた。そこで、ヒト胎盤絨毛細胞を用いたin vitro薬物胎盤通過性実験によるQSARモデル式の妥当性に関する検証を行い、妊娠母体に似た培養条件下で、ヒトにおける薬物胎盤通過性の特徴を再現することに成功している。これらの研究成果を臨床での医薬品適正使用に活用すべく、現在、徳島大学病院薬剤師とともに、特に、妊婦への医薬品情報提供活動に必要な医薬品安全性情報について調査しているところである。このように、初年度の研究実施計画に基づき、おおむね順調に研究が進んでおり、各項目の到達目標が達成されつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度研究計画1~3の項目を継続実施する。特に、項目1のmulti-SVMモデルを用いて多種類の毒性を統合的に予測するための研究と、項目2のin vitro実験データの解析によるクリニカルQSARモデル式の意味の検証を重点的に行いたい。また、安全性情報予測モデルの臨床応用に向けた項目3の調査研究をさらに進める。これらの研究成果を学会等で積極的に発表する予定である。1. 医薬品情報の収集とin silicoデータマイニングによる薬物のヒト安全性予測モデルの構築:前年度は、4種類の薬物のヒト毒性予測を目的としたSVMモデルをそれぞれの毒性毎に個別に構築した。今年度は複数の薬物毒性を一括予測するため、マルチラベル分類技術を導入した SVMモデルの構築を目指す予定である。このMulti-SVM分類システムを用いて、未知化合物のヒトにおける多種類の毒性について、各毒性の有無を統合的に解析できるかどうかを検証したい。2.In vitro薬物胎盤通過性実験データのQSAR解析:構築した薬物のヒト胎盤通過性に関するクリニカルQSARモデル式の妥当性を、in vitro実験により検証する。種々の薬物関するin vitro JEG-3細胞通過性実験データを使ってQSAR解析を行い、各QSARパラメーターの意味について検討する。3.臨床への医薬品安全性予測モデルの応用:安全性予測モデルを医師への医薬品安全性情報提供活動に利用することを試みる。即ち、妊娠・授乳期の薬物療法で胎盤通過性が少なくかつ胎児毒性等のない薬や、母乳移行性の少ない薬物を第一選択薬として医師に推奨するなど、産婦人科病棟やおくすり相談室における薬剤師のDI活動への有効利用を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
(1)当該研究費が生じた理由以下に挙げる理由により、研究費(652,581円)を次年度に繰越すことになった。(1)デスクトップパソコン1台を当初予算の半額以下で購入することができた。(2)東京で開催された医薬品情報学会以外、徳島から近い神戸、および徳島で開催された学会等に参加して研究成果を発表したため国内旅費経費が少なかった。(3)システム管理とデータ更新に要した人件費・謝金が、平成23年度事業費から6カ月分(8月~1月)しか差引かれなかったため、2か月分が持越しとなった。(2)翌年度以降に請求する研究費とあわせた使用計画を入力平成23年度研究費の繰越分は、平成24年度以降の研究助成費と合わせて、臨床での医薬品安全性情報の収集・解析・提供のために使用するノートパソコン1台と実験等に要する消耗品の購入、および前年度2月と3月分の人件費・謝金の支払いに充て、有効に使用する予定である。
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