本研究の目的は、①ヒト肝細胞キメラマウスとトキシコゲノミクスの手法を活用することで同一薬効成分を有するものの製剤中の添加剤が異なる医薬品をヒトに使用する場合の薬剤性肝障害リスクを予測する評価系を開発すること、ならびに ②その評価系を用いて肝障害の副作用が懸念されている後発医薬品の肝障害発症リスクに関する情報を精査し、臨床現場へ発信することである。そのため国内共同研究者である島田卓研究員(フェニックスバイオ)、長塚伸一郎研究員(積水メディカル)ならびに立木秀尚研究員(東和薬品)らと研究チームを組織し、平成25年度はこれまでの研究成果により本評価法の産業財産権を取得するとともに、本法の試験結果と臨床での肝障害発現頻度との比較、さらには他の後発医薬品の品質評価への応用を行うことで本法の確立に取り組んだ。その結果、本評価法を Toxicity of Liver Examination 法(T-LEX 法)と命名し、その商標を登録した(第5617856号)。また、すでに T-LEX 法による解析で先発医薬品と後発医薬品のヒト肝毒性イベント関連遺伝子群の発現変動に同等性が認められているアトルバスタチン錠について患者を対象に肝障害の発現頻度調査を行ったところ、両製剤の臨床での肝障害発現頻度も同程度であることが示され、T-LEX 法により臨床での肝障害イベントの発症リスクを予測することが可能であるとの知見を得た。さらにメトトレキサートや HMG-CoA 還元酵素阻害薬を含めた様々な薬剤や剤形の後発医薬品について肝障害リスクに関する実用性の高い情報を発信した。T-LEX 法はヒト臨床試験とは別の方法で製剤由来のヒト肝障害リスクの予測が可能なため、販売時に十分な規模の臨床試験データの提供が困難な後発医薬品を臨床現場で安心して使用するための極めて有益な新技術になると期待できる。
|