研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の神経変性の一つの原因としてアミロイドβ(Αβ)の凝集による老人斑の形成が考えられているが、アミロイド前駆蛋白質(APP)のプロセッシングでAβと共に産生される細胞内部分(AICD)の役割については明らかにされていない。近年,Ghosalらの報告により,AICDもADの病理的特徴を引き起こす可能性があることが示唆されており,AD患者脳においてAICDが蓄積されていることが明らかになった(2009)。これらのことから,胎生期から成体への脳形成過程およびAD発症機序においてのAPP(AICD)の役割を解明することが非常に重要である。そこで我々はヒトAPP遺伝子を鋳型にAICD領域177bpについて,pCDNA4ベクターにクローニングし,強制発現系を構築した。この構築したプラスミドをマウス胚性腫瘍細胞であるP19細胞に一過性に導入し,AICD発現を確認したところ,高発現を確認できた。P19細胞は,レチノイン酸(RA)により分化誘導され、神経細胞およびグリア細胞に分化する。定量的RT-PCR法を用いて、RA誘導過程(4日目)における神経幹細胞維持に関わる遺伝子群の発現量の変化,神経分化過程(6日目)における神経分化関連遺伝子群の発現量の変化を空ベクターを導入した細胞(コントロール細胞)とAICD遺伝子を導入した細胞(AICD細胞)とを比較検討した。AICD導入細胞が神経マーカーであるTuj1,MAP2 mRNAが分化過程において減少傾向を示した。また,RA誘導過程において,幹細胞マーカーの一つであるOct4 mRNAが増加した。これらの検討で,AICDがP19細胞の神経分化を抑制する傾向や幹細胞維持を調節するOct4の発現量に関与することが示唆されたことから,今回の結果を基に AICDが関わる神経分化抑制シグナル伝達機構の全貌を今後明らかにしていきたい。
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