研究課題/領域番号 |
23590198
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤田 健一 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (60281820)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腎不全 / 尿毒症物質 / イリノテカン / 体内動態 / トランスポーター / UGT1A1 / SN-38 |
研究概要 |
1 尿毒症物質によるUGT1A1活性の阻害腎不全時に血中に蓄積する尿毒症物質,インドキシル硫酸(IS),3-carboxy-4-methyl-5-propyl-2-furanpropionate(CMPF),インドール酢酸(IA),馬尿酸(HA)による,UGT1A1により触媒されるSN-38の抱合活性の阻害を検討した.尿毒症における最大血中濃度CMPF 400 μM,IS 800 μM,IA 50 μMおよびHA 2 mMを添加した場合のUGT1A1の残存活性は,IS 47.4%,CMPF 81.5%,IA 86.4%およびHA 92.4%であり,ISの阻害効果が最大であった.1 μM SN-38の代謝に対するISによる阻害のIC50は800 μMであった.3名の腎不全患者にイリノテカンを投与した時のSN-38のCmaxは約0.1 μM,ISの血漿中濃度は85 μMであり,これらの患者ではUGT1A1によるSN-38の抱合活性が約50%阻害されると考えられた.2 尿毒症物質によるトランスポーター活性の阻害尿毒症物質が,SN-38の肝への取り込みに関与するOATP1B1を阻害するか否かを検討した.HEK293に発現したOATP1B1によりSN-38は取り込まれ,その取り込みは濃度依存的に飽和した(Km 5.3 μM).OATP1B1によるSN-38の取り込みはCMPF,ISおよびHAにより阻害された.阻害効果はCMPFが最大であった(IC50 163 μM).ヒト初代凍結肝細胞を用いた実験においてもCMPFによるSN-38の取り込みの部分的な阻害が認められた.3名の腎不全患者におけるCMPFの血中濃度は約75 μMであり,腎不全患者におけるCMPFの上昇は,これらの患者での特異なSN-38の体内動態の部分的な要因であると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
尿毒症物質によるUGT1A1の酵素活性の阻害についてはほぼ結論が得られた.また,尿毒症物質によるトランスポーター活性の阻害についてもほぼ結論が得られ,さらに当初は予定していなかったヒト凍結初代培養肝細胞を用いた研究も実施して,HEK細胞を用いた場合と同様の結果が得られた.また当初は計画していなかった,イリノテカンを投与した腎不全患者におけるSN-38の遊離型濃度の検討も開始した.
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今後の研究の推進方策 |
1 ヒト凍結初代培養肝細胞を尿毒症物質に暴露した後に,UGT1A1やトランスポーターおよびSN-38の動態に影響を与えるその他の因子のmRNAの発現プロファイルが変化するか否かをin vitroにて明らかにする.2 尿毒症物質の中は血中アルブミンに対して高親和性を有するものが存在する.したがって腎不全患者におけるSN-38の遊離型の血中濃度は,正常な腎機能の患者と比較して上昇する可能性が考えられる.そこで当初は計画していなかったがイリノテカンを投与した腎不全患者におけるSN-38の遊離型濃度を検討する.また,様々な尿毒症物質によるSN-38の蛋白結合に対する阻害効果を検討する.3 SN-38の体内動態に関与する因子に対して影響する可能性のある因子を探るために,一般に透析患者において血中濃度が上昇していると考えられている他の物質についても,同様のin vitroの実験を行い,代謝酵素やトランスポーターの活性や発現量に対する影響を調べる.物質が見いだされた場合は,透析患者および正常な腎機能の患者から採取済みの血漿を用いて見いだされた物質の血中濃度を比較する.4 腎障害モデルラットを作成してイリノテカンを投与し,正常なラットとの血中および尿中薬物動態の差異を調べ,ヒトでの現象を検証する.また,上記のin vitro研究にて見いだした物質を動物に投与し,さらにイリノテカンを投与して,見いだした物質のSN-38の動態に対する影響を調べる.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は上記の研究の推進方策にしたがって使用する.主としてヒト凍結初代培養肝細胞,Wister系ラットにて腎を5/6切除した腎障害モデルラット,蛋白結合の実験に用いる限外濾過装置,HPLC分析に必要な物品などの消耗品の購入にあてる.なお本年度は,当初は予定していなかったヒト凍結初代培養肝細胞を用いた活性阻害研究を行った.そのため同細胞を用いたmRNAの発現プロファイルに関する研究は次年度に行うことになった.これらの研究は次年度使用額に記載した研究費にて実施する.また,次年度使用額分の研究費は今年度に得られた知見を学会にて発表するための旅費などにも使用する.
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