研究課題/領域番号 |
23590198
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤田 健一 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (60281820)
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キーワード | SN-38 / 排出遅延 / 腎機能 / 尿毒症物質 / OATP1B1 / 発現低下 / 蛋白結合 |
研究概要 |
(1)ヒト培養肝細胞におけるSN-38の取り込みおよび尿毒症物質による阻害:ヒト培養肝細胞へのSN-38の取り込みを速度論的に解明した.SN-38の取り込みには飽和が認められた.OATP1B1およびOATP1B3の阻害薬を用いた検討により,SN-38の肝取り込みには主としてOATP1B1が関与することを明らかにした.HEK293に発現したOATP1B1,OATP1B3およびOATP2B1を用いた研究でも肝細胞と同様な結果が得られた.HEK293に発現したOATP1B1によるSN-38の取り込みに対する阻害効果が最大であった尿毒症物質CMPFが,ヒト肝細胞におけるSN-38の飽和的な取り込みを阻害することを速度論的に明らかにした. (2)尿毒症血漿によるOATP1B1およびOATP1B3 mRNAの発現低下:推算糸球体濾過量(eGFR)が15 mL/min未満の極めて腎機能の低下した患者,およびeGFR >60 mL/minの正常腎の患者より血漿を得た.接着型のヒト培養肝細胞にこれらの血漿を添加して培養したところ,尿毒症血漿の添加によりOATP1B1およびOATP1B3 mRNAの発現がコントロール血漿の場合と比較して有意に低下することを明らかにした. (3)イリノテカンを投与した腎不全患者におけるSN-38の遊離型濃度の上昇:著しく腎機能の低下した患者における,塩酸イリノテカンの投与1時間後の遊離型SN-38の割合は,健常腎の患者と比較して2.6倍も高いことを見いだした.Ex vivo研究において,腎機能低下および正常腎の患者より採取した血漿にSN-38を添加し,その蛋白結合率を測定した.その結果,腎機能の低下した患者における蛋白結合率は,健常腎の患者と比較して2-3倍低いことを検証することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画に従って,ヒト肝細胞によるSN-38の取り込み機構を明らかにし,尿毒症物質による取り込みの阻害を速度論的に結論づけた.また,塩酸イリノテカンを投与した腎不全患者におけるSN-38の遊離型濃度は,健常腎の患者と比較して有意に高いことを世界に先駆けて明らかにした.さらに腎不全患者および健常腎の患者より採取した血漿を用いたex vivoの研究により,イリノテカンを投与した患者における蛋白結合率が低下する現象を検証することができた.以上,肝消失型であるSN-38の排泄が,顕著な腎機能の低下により遅延するメカニズム,ならびにこれらの患者における好中球減少の発症および遷延のメカニズムの解明に向け確実に前進した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)OATP1B1およびOATP1B3の発現と腎機能に関する研究:SN-38の肝取り込みに関与するOATP1B1およびOATP1B3の発現と,腎機能の関係を検討する.既に,正常な腎機能(eGFR) >60 mL/min),eGFR 30-60 mL/min,eGFR 15-30 mL/minおよび重篤な腎機能障害(eGFR <15 mL/min)の患者の血液を10検体ずつ得た.1) ヒト培養肝細胞を様々な腎機能レベルの血漿に暴露した後に,OATP1B1およびOATP1B3 mRNAの発現レベルをRT-PCRを用いて解析する.2) ヒト肝細胞を様々な尿毒症物質に暴露した後にOATP1B1およびOATP1B3 mRNAの発現レベルをRT-PCRを用いて解析する.発現低下を示す尿毒素については,SN-38取り込み活性に及ぼす影響を見る. (2)SN-38の蛋白結合と腎機能に関する研究:腎機能の極めて低下したがん患者におけるSN-38の蛋白結合率の低下のメカニズムを解明するために,まずは腎機能低下患者の血中に高濃度に存在する尿毒症物質によるSN-38のアルブミンへの結合に対する競合的な阻害の可能性を考えて以下の研究を実施する.1) 様々な腎機能の患者の血漿を用いてex vivoの研究を行いSN-38の血漿蛋白結合率と腎機能の関係を明らかにする.2) 正常ヒト血清を用い,尿毒症物質によるSN-38の結合阻害を見る.最大臨床濃度で阻害の見えたものについては濃度依存性をとる.3) 患者の血漿中に含まれる尿毒症物質濃度を測定し,SN-38の蛋白結合率との関係を明らかにする. 腎機能の低下した患者におけるSN-38の蛋白結合率の低下が,尿毒素による競合的な阻害で説明できない場合は,腎機能低下患者において認められるホモシステイン化などのアルブミンの修飾の影響を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は上記の研究の推進方策にしたがって使用する.主としてヒト凍結初代培養肝細胞,蛋白結合実験に用いる限外濾過装置および透析膜など,HPLC分析に必要なカラムなどの消耗品の購入にあてる.また,今年度に得られた知見を学会にて発表するための旅費などにも使用する.
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