研究課題
本申請研究では,肝代謝型の塩酸イリノテカン,特に活性代謝物であるSN-38の排泄が,顕著な腎機能の低下により著しく遅延するメカニズムの解明を試みた.平成24年度までに,ヒト培養肝細胞によるSN-38の取り込みには飽和が認められ,担体輸送が関与することを見いだした.SN-38の肝取り込みには主としてOATP1B1が関与することを明らかにした.尿毒症物質CMPFが,ヒト肝細胞におけるSN-38の飽和的な取り込みを阻害することを明らかにした.尿毒症血漿の添加によりOATP1B1およびOATP1B3 mRNAの発現がコントロール血漿の場合と比較して有意に低下することを明らかにした.著しく腎機能の低下した患者に,塩酸イリノテカンを投与した場合の遊離型SN-38の割合は,健常腎の患者と比較して2.6倍も高くなることを見いだした.本年度は,腎機能の極めて低下したがん患者におけるSN-38の蛋白結合率の低下を検証するために,推算糸球体濾過量(eGFR) >60,30-60,15-30または<15 mL/minの患者の血液を10-12検体ずつを用いたex vivo研究を行った.腎機能の低下に伴い,SN-38の遊離型濃度が有意に上昇することを見いだした.現在,SN-38の蛋白結合を阻害する尿毒症物質を探索しており,インドキシル硫酸や馬尿酸が候補化合物として見いだされた.これらの研究は,今後新規の基盤研究(C)(26460205)にて継続していく.以上,腎機能の低下したがん患者におけるSN-38の排泄が,遅延するメカニズムの一端を解明した.また,当初の研究計画にはなかったが,著しく腎機能の低下した患者においては,遊離型SN-38が有意に上昇することを見いだした.腎機能の低下した患者においては,これらのメカニズムにより好中球減少が遷延し,次投与の開始が遅延したと考えられた.
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