研究課題/領域番号 |
23590202
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
長谷川 弘 東京薬科大学, 薬学部, 講師 (80218453)
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キーワード | ホモシステイン / メチオニン / メチル基転移 / 安定同位体 / 腎不全 / GC-MS / 13C NMR / 代謝フラックス |
研究概要 |
メチオニンの脱メチル化代謝物であるホモシステインの血漿濃度が基準値よりもわずかに高い状態が持続することは、心血管疾患の危険因子として知られている。ホモシステインは、腎不全患者において蓄積されやすく、透析患者の主要な死因の一つである心血管疾患との関連性が注目されている。本研究は、高ホモシステイン血症をホモシステインの生成と代謝の平衡が崩れている状態と捉え、腎機能低下に伴ってどのような機序で高ホモシステイン血症を呈するかを明らかにしようとするものである。 24年度は、代謝フラックス解析法を用い、ホモシステインの生成(脱メチル化)能、代謝(再メチル化及びイオウ転移)能を定量評価する方法の構築を目指した。定常状態下での解析を目的に、健常ラット及び3/4腎摘除ラットに安定同位体標識したメチオニンを急速静脈内投与+持続静脈内投与し、経時採血して得た血漿中のそれらの濃度をガスクロマトグラフー質量分析計により測定した。各標識体、内因性メチオニン及びホモシステインの血漿中濃度、及びそれらから算出したenrichmentの時間推移を用い、再メチル化代謝回転速度を求めた。代謝反応の場である組織(臓器)内で起きる事象を、観測点である血漿(組織外)データから評価するモデルを構築し、解析した。その結果、3/4 腎摘除ラットにおけるメチオニンの全代謝回転速度、ホモシステインのメチオニンへの再メチル化代謝速度は、健常ラットのそれぞれ約75%,約70%であった。このことから、腎機能低下に伴う再メチル化能の低下が慢性腎不全で認められる高ホモシステイン血症の一因であることが示唆された。本研究をさらにすすめ、脱メチル化及びイオウ転移に関する代謝速度の解析を行い、慢性腎不全に伴う高ホモシステイン血症の成因解明につとめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3/4腎摘除ラット作出におけるわずかな腎摘除量の差異が、代謝回転速度の大きな個体差の原因となることが明らかになった。そのため、1群あたりの個体数を多くして動態実験を行う必要が生じた。それに伴い、投与に用いる安定同位体標識体が予定量より多く必要となり、その合成に時間が割かれた。そのため、もう一つの研究の柱であるNMRを用いた一炭素転移反応の網羅的解析法の開発が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
立案計画に従い、研究を遂行する。既に、研究計画のうち、急速静脈内単回投与による非定常状態下での解析は終了している。H24年度は、H23年度に引き続き持続静脈内投与による定常状態下での動態解析を行う。まだ結果が得られていない3/4腎摘除ラットへの安定同位体標識ホモシステインの持続静脈内投与を行い、ホモシステインの生成(脱メチル化)能、代謝(再メチル化及びイオウ転移)能を求める。急速静脈内単回投与による非定常状態下での結果と持続静脈内投与による定常状態下での結果を総合評価し、腎実質の減少に伴う高ホモシステイン血症の成因を明らかにする。 13C標識メチオニンとNMRを用いたメチル基転移反応の解析を培養細胞系により行い、培養条件、試料調製条件及びNMR条件を確立する。特に、予備検討で明らかになった13C NMRの感度を補うような、培養条件を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度において、研究遂行の遅れているNMRによるメチル基転移反応の解析に用いる予定であった研究費をH25年度に組み入れて使用する。 種々の安定同位体標識体の合成に用いる DL-[2H4]メチオニン、L-[1-13C]メチオニン、L-[S-13CH3]メチオニン及び[C2H3]ヨウ化メチルなどの試薬、生体試料用固相抽出カラム、遺伝子・タンパク質発現解析用試薬、ディスポーザブルなプラスチック器具、及び実験動物(ラット)購入経費等を消耗品に充てる。また、論文投稿のための英文校閲費、研究成果報告書作製費に充てる。
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