ホモシステインの血漿濃度が基準値よりも高い状態が持続することは,心血管疾患の危険因子の一つとして知られている.ホモシステインは,腎不全患者において蓄積されやすく,透析患者の主要な死因の一つである心血管疾患との関連性が注目されている.本研究は,高ホモシステイン血症をホモシステインの生成と代謝の平衡が崩れた状態と捉え,腎機能低下に伴って,どのような機序で高ホモシステイン血症を呈するかを明らかにしようとするものである. 25年度は,これまでの検討で構築することができた代謝フラックス解析法を用い,腎不全病態モデルである3/4腎摘除ラット及び健常ラットのホモシステインの生成(脱メチル化)能,代謝(再メチル化及びイオウ転移)能を測定した.その結果,代謝回転速度よりも代謝クリアランスの方が評価指標として優れていること,腎部分摘除によって腎実質が減少してもメチオニンの脱メチル化クリアランスは健常ラットと差異が認められない一方で,3/4腎摘除ラットの再メチル化クリアランス及びイオウ転移クリアランスは健常ラットのそれぞれ約50%,10%低下すること等を明らかにした.3/4腎摘除による代謝クリアランスの減少分をメチオニンやホモシステイン濃度を上昇させることで補い,メチオニンーホモシステイン代謝回転速度を維持しているものと考えられた. 本研究により,腎機能低下に伴う再メチル化能低下が腎不全に合併する高ホモシステイン血症の成因機構の一端を明らかにすることができた.しかし,今回用いた病態モデルは血液生化学データから保存期腎不全病態であることが推測される.重度に腎機能が低下したときに,高ホモシステイン血症の成因機構,特に脱メチル化能がどのように変化するかを明らかにすることが,透析患者における心血管疾患合併の機序解明につながるものと考えている.
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