本課題では、妊娠時薬物療法における胎児安全性の情報蓄積の一環として、より簡便かつ、より in vivoを反映したin vitro包括的胎盤薬物透過評価モデルを確立することに取り組んだ。医薬品の胎盤透過を評価するためには、モデル細胞層が胎盤の物質透過を主に担う層であるシンシチオトロホブラスト層に類似していることが不可欠である。まず、細胞間隙透過と逆相関する経上皮電気抵抗値(TEER値)の上昇、およびシンシチオトロホブラスト様分化指標のmRNA発現を確認することで、CS-C®培地によって培養したJEG-3細胞層(DJEG)が、現状では最適なモデル細胞層であることを見いだした。さらにシンシチオトロホブラスト層で最も高発現である排出トランスポーターbreast cancer resistance protein (BCRP)に関して、この機能解析を行うためにBCRPの基質であるシメチジンを用いてDJEG細胞層におけるBCRPの透過機能解析を行った。DJEG細胞層を介したシメチジンの透過性は、胎児側(F)から母体側(M)への濃度依存的な飽和性を示し、FとMのシメチジン濃度を同濃度とした場合の90分後におけるF/Mシメチジン濃度比(F/M DJEG)は、0.51±0.15と低レベルであることが認められた。また、BCRP阻害剤によって、本DJEG細胞層モデルにおけるシメチジンの透過性は減弱したことからも、本モデルを用いることで胎盤に高発現であるBCRP機能を反映した透過性比較が可能であることを示された。これらの結果から、DJEG細胞層がBCRPの透過機能に関してもin vivoとよく相関していることが示され、以後、各種医薬品のF/M比を継続して比較検討するとともに、さらなる生体内類似性を表現させることで、本モデルが医薬品の胎児移行を評価する指標となり得ることを明確にしていく。
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