研究課題/領域番号 |
23590209
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
三田村 邦子 近畿大学, 薬学部, 准教授 (70242526)
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研究分担者 |
池川 繁男 近畿大学, 薬学部, 教授 (90111301)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 胆汁酸 / プロドラッグ / N-アセチルシステイン / グルタチオン / 硫酸抱合 / 肝障害 / LC/MS / イメージング質量分析法 |
研究概要 |
本年度は、既に申請者らが新規肝・胆・消化機能改善薬のプロドラッグとして提唱しているウルソデオキシコール酸(UDCA)のN-アセチルシステイン(NAC)抱合体(UDCA-NAC)の代謝及び薬理活性に関する基礎的検討を行った。1.UDCA-NACやその代謝物であるUDCAのグルタチオン(GSH)抱合体は硫酸抱合を受けることが推測されることから、UDCAを含むヒト主要胆汁酸(BA)5種のNAC及びGSH抱合体のin vitro硫酸抱合に検討を加えた。まず、BA-NAC/GSHの3-サルフェート標品を化学合成し、LC/ESI-MS/MSによる高感度測定法を構築した。次いで、PAPS存在下、BA-NAC/GSHをラット肝サイトゾール画分とインキュベートし、反応液を経時的に採取して生成物をLC/MSにより測定した。その結果、BA-NAC/GSHはいずれも硫酸抱合を受けるものの、カルボキシエステラーゼの作用によりチオエステル結合が加水分解を受け、大部分が遊離型UDCAとUDCA 3-サルフェートに変換されることが判った。これはUDCA-NACが生体では二重抱合体としてはほとんど排泄されないことを示していた。2.アセトアミノフェン誘発肝障害モデルラットにUDCA-NACを頸静脈投与後の血漿中肝逸脱酵素(AST及びALT)活性を測定したところ、UDCA-NACはアセトアミノフェンによる肝障害マーカー酵素の上昇を抑制する傾向があった。本結果は、UDCA-NACが肝機能改善薬として有用なことを示すものであった。3.UDCA-NAC及び遊離型UDCA、グリシン、タウリン抱合型UDCAのMALDI-TOFMSによる測定条件を設定するとともに、UDCA-NAC投与マウス肝組織切片を質量分析イメージング法に付し代謝物の分布を測定したところ、タウリン抱合体の肝組織への蓄積が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
23年度は1)重水素標識UDCA-NACの合成、2)重水素標識UDCA-NAC投与ラットにおける動態解析、3)UDCA-NACの肝機能改善作用・脂質代謝異常に対する薬理作用の評価に関する検討を計画していた。1)に関しては、市販の重水素標識UDCAが容易に入手できたことから、これを出発原料として目的とする重水素標識体を得ることができた。2)に関しては、島津製作所の協力によりUDCA-NACの質量分析イメージング法による代謝物の体内分布についての基礎的研究を行うことができた。また、尿中代謝物として推測される硫酸抱合体についてはUDCAを含むヒト主要胆汁酸5種のNAC並びにグルタチオン抱合体の3位硫酸抱合体標品の合成に成功し、LC/ESI-MS/MS測定法を設定するとともに、in vitroでの代謝研究を行い、代謝物を追跡する上で有用な知見を得ることができた。しかしながら、尿中、胆汁中代謝物については現在引き続き検討しているところである。また3)に関しては、肝障害モデルラットについて2種の血中逸脱酵素より肝機能改善の可能性を示唆する結果が得られた。しかし、他の肝機能マーカー酵素活性や、脂質代謝異常に対する薬理効果あるいはUDCA-NACとUDCA、NAC単独との比較など、検討すべき課題も残されている。以上の観点から、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は、23年度の研究で残った課題について再検討するとともに、それらの結果を踏まえて当初に予定していた研究を進めていく。このような方策から、以下の研究を重点的に行う予定である。1)UDCA-NACの体内動態解析:UDCA-NAC投与ラット尿中・胆汁中代謝物をLC/MSにより追跡する。また、質量分析イメージング法では未検討であった脳内・腎内等への移行を明らかにすべく、まず、これら臓器よりUDCA-NAC代謝物を抽出して、LC/MSにより追跡する。2)UDCA-NACの薬理学的検討:UDCA-NAC、UDCA、NACそれぞれを肝障害モデルラットに投与し、肝疾患マーカー酵素活性を指標として肝機能改善作用について評価する。3)胆汁酸誘導体の合成:グルタミン、グルタミン酸、システイン、システイニルグリシン、システイニルグルタミン酸などと胆汁酸の抱合体を有機化学的に合成するとともに、これらのLC/MSおける挙動を精査し、高感度測定法を構築する。4)UDCA親和タンパク質の捕捉を目的としたリガンドの合成:UDCAの3位水酸基あるいは24位カルボキシ基から架橋を伸ばし、不溶性担体と結合するためのリガンドを合成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)頸静脈カニュレーションを施したラットにUDCA-NACを投与後、経時的に尿及び胆汁を採取する。次いで、除タンパクあるいは希釈後、固相抽出法により代謝物を抽出後、未変化体(UDCA-NAC)、遊離型UDCA、グリシン、タウリン並びにGSH抱合型UDCAを指標に追跡する。また、UDCA-NAC投与ラットより摘出した肝臓、脳、腎臓のホモジネートを同様に前処理した後、代謝物を追跡し体内分布を明らかにする。2)頸静脈カニュレーションを施したラットにアセトアミノフェンを腹腔内投与して肝障害を誘発後、未投与群、UDCA-NAC投与群、UDCA投与群、NAC投与群に分け、AST及びALT活性を経時的に追跡し、薬理作用を評価する。また、高脂血漿モデルラットが入手できれば同様に検討する。3)ヒト主要胆汁酸5種を混合酸無水物法あるいは活性エステル法によりグルタミン、グルタミン酸、システイン、システイニルグリシン、システイニルグルタミン酸などと縮合し、各種誘導体を有機化学的に合成する。引き続き、ESI-MS、ESI-MS/MSにおける特徴的イオンの生成に検討を加え、高感度測定法を開発し、生体試料中におけるこれら誘導体の追跡の布石とする。4)UDCAの24位カルボキシル基、7位水酸基を選択的に保護した後、3位水酸基にカルボキシ基あるいはアミノ基を導入する。また、3及び7位水酸基を保護した後、24位カルボキシ基にアミノ基を導入する。これらを不溶性担体と結合してUDCAリガンドを調製する。
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