本研究では,非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs)による特異体質性肝障害の発症機序に薬物代謝酵素やトランスポーターの機能低下が関与するかを明らかにするために,親電子性反応代謝物 (ERM)の生成に関わるシトクロムP450 (CYP)ならびにUDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT),ならびに肝細胞からの排出に関わるトランスポーターmultidrug resistance-associated protein 2 (MRP2)およびMRP3,さらにグルタチオン抱合に関わるグルタチオン転移酵素 (GSTs)について検討を行った。 ラット初代培養肝細胞にMRP2およびMRP3に対するsiRNAを用いノックダウン作用を評価したところ,mRNAおよびタンパク発現に対して60%以上のノックダウン効果が得られ,特異体質性肝障害の検討に用いることとした。ノックダウン細胞にNSAIDsであるジクロフェナクを添加し,経時的に細胞内外のジクロフェナクおよびジクロフェナクグルクロン酸抱合体濃度を測定したところ,これらのトランスポーター活性を抑制してもグルクロン酸抱合体の細胞内蓄積量に大きな影響を与えないことが明らかとなった。また,このときの細胞毒性もコントロールと同程度であることが示された。これより,細胞内からのグルクロン酸抱合体の排出過程は特異体質性肝障害発症において決定因子ではない可能性が示された。次に,第2相代謝酵素であるUGTを阻害したところ,細胞内および細胞外のジクロフェナクグルクロン酸抱合体は有意に低下したものの,細胞毒性や共有結合体生成量は大きな変動を示さなかった。今回の検討では,ノックダウンまたは阻害作用が十分でなかったことも考えられるが,検討した以外の分子が特異体質性肝障害の原因となる可能性が示唆された。
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