研究概要 |
ツメガエルの中内胚葉細胞はxSDF-1 を強制発現させた細胞に向かって集団で移動する。この系を用いて,細胞集団運動に対するxCXCR7の影響を調べた。昨年度までの研究で細胞間接着の制御にxCXCR7を通した情報伝達経路が介在している可能性が示されたので,その内容についてさらに詳細な調査をおこなった。 CXCR7はアレスチンを介してAKT情報伝達系やMAPキナーゼカスケードを活性化する可能性が報告されている。そこでこれらの阻害剤を用いてxCXCR7の細胞解離に対する影響を調べたところ,MAPキナーゼカスケードに関与するMEKの阻害剤が細胞解離を抑制することが示された。これとは別に,カドヘリンのアンカータンパク質であるαカテニンの膜局在がSDF-1処理により消失することも見出している。これらを総合すると,xCXCR7を介するMAPキナーゼカスケードの下流でαカテニンのカドヘリン・カテニン複合体からの解離が引き起こされ,結果として細胞の解離が引き起こされることが示唆される。また,SDF-1はCXCR4とCXCR7という異なる受容体を使い分けることで,細胞-基質間接着と細胞-細胞間接着を別々に制御するという新しい機構が考えられる。 細胞の集団運動において, 細胞は移動の際に隣接する細胞とその接着性を微妙に調節していることが考えられており,今回観察された現象はxCXCR7が集団運動のための細胞間接着制御に関与していることを強く示唆している。分子レベルで直接細胞間接着を直接調整する情報伝達機構についての知見はこれまでほとんどなく,この研究は上皮-間充織遷移(EMT)やガンの浸潤・転移のメカニズム,上皮の障壁機能不全の解明等に寄与すると考えられる。
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