哺乳類と鳥類の系統発生において,胴部が,椎骨と肋骨を持つ胸部と肋骨を持たない腹部とへ分化したのは,独立に生じた収斂進化の結果と考えられる.哺乳類と鳥類の個体発生における軸骨格の部域特異的形成機構を明らかにし,両者の間の相違点と共通点を追究することによって,収斂進化の必然性にせまりたい.一方,我々は,ニワトリ胚の肋骨がその長軸に沿った3つの区画からなることを示したが,その最も遠位にある遠位肋骨胸骨部は,発生上,四肢と同じカテゴリーに属する.胸部と腹部の分化,すなわち腹部で肋骨が失われたのは後肢の発達によるものではないかという仮説をたてている. 1.鳥類(ニワトリ)とほ乳類(マウス)における,椎骨および肋骨形成の比較発生学. ニワトリ胚とマウス胚を,アルシアンブルーとアリザリンレッドの二重染色し,その軸骨格の軟骨形成と骨化パターンを比較・検討した.軟骨形成については,ニワトリ胚とマウス胚に違いは見られなかったが,骨化パターンには両者で違いが認められた.ニワトリ胚では椎体は上位頸椎から下位頸椎に向かって骨化する波と,下位胸椎から頭尾両側へ向かって骨化する波があるのに対して,マウス胚では下位胸椎に始まり頭尾両側へ向かう骨化の波のみが認められた.このことは,マウスとニワトリとでは,系統発生における,その中軸骨格部域化の機構が異なっていることを示唆する. 2.肋骨の成長を抑制する部域特異的因子. 通常であれば長い肋骨を形成する胸部体節を腰仙部に移植するとそれから形成される肋骨は十分な長さにまで成長しない.その初期形成過程を移植胚において観察すると,胸部体節細胞の移動が腰仙部側板中胚葉のところで停止することが認められた.一方,胸部側板中胚葉は胸部体節細胞の侵入を許す.この現象を体節細胞と側板細胞との間の反発と考えそれを証明するためにin vitro再現実験系の確立に取りかかった.
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