研究概要 |
一部の哺乳動物では大脳皮質が著しく発達し、複雑な脳溝を形成する。我々はサルにおける脳溝形成の詳細を肉眼解剖的(Fukunishi et al, Anat Embryol, 2006; Kashima et al, Brain Struct Funct, 2008)およびMRI画像解剖的(Sawada et al, Brain Struct Funct, 2009)に明らかにした。更に、脳溝形成への皮質下白質線維束の関与についても明らかにした(Sawada et al, Neurosience, 2010)。本研究は、脳溝を形成する最も小型の実験動物であるフェレットを用いて、その脳溝形成に関与する連合線維を特定し、その発生・発達・有髄化に伴う脳溝の形状と脳溝周辺の皮質層構造の変化をMRI画像解剖的および免疫組織化学的に明らかにすることを目的とする。 23年度は生後4、10、21、42日齢および成獣(3ヶ月齢)の雌雄フェレット(各3~6例)を灌流固定し、取り出した大脳の脳溝・脳回の形成について肉眼解剖的に観察を行った。フェレット大脳皮質では、4日齢には既に冠状溝と上シルビウス溝吻側部が確認できた。10日齢には前シルビウス溝と十字溝がみられ、前・後S字回、冠状回、前シルビウス外回など大脳吻側半の脳回が形成された。大脳尾側半では、10日齢に偽シルビウス溝と嗅脳溝が、21日齢には上シルビウス溝尾側部と外側溝がみられ、これらの脳溝の発生により21日齢までに大脳尾側半の脳回、すなわち外側回、後シルビウス外回、シルビウス上回が形成された。以上の結果から、フェレット大脳は吻尾側方向に皮質の成熟が進み、脳溝・脳回は吻側部から順に発生することが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、採取した大脳固定標本のMRI計測(T1強調画像、T2強調画像、拡散強調画像の取得)を継続して行い、これらの画像を元に、(1)大脳皮質や皮質下構造の体積の計測、(2)FA値の計測、(3)gyrification indexの計測、(4)Volume-rendering法による脳溝の三次元的形状の変化、(5)T1強調シグナルとT2強調シグナルのコントラスト比から皮質下白質線維(同定した連合線維)の有髄化の評価などを行う。更にMRI計測が終了した標本については、順次凍結切片を作製していき、脳溝の底部、脳回の冠部、脳溝底と脳回冠部中間部で大脳皮質層構造のマーカー抗体(SMI-32, calbindin D-28k, calretinin, parvalbumin, NeuN, GAP43など)を用いた免疫染色を行い、各部位の皮質各層での陽性細胞数や免疫陽性強度を計測し、脳溝形成時の皮質層構造の変化を検討する。また、ミエリン塩基性蛋白の免疫染色やクリューラ・バレラ染色を行い、脳溝・脳回形成時の皮質下白質線維の有髄化を評価する。
|