研究課題/領域番号 |
23590225
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
松本 英子 埼玉医科大学, 医学部, 助教 (00312257)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 神経回路形成 / 大脳皮質ニューロン / 軸索ガイダンス / 軸索分岐形成 / 軸索分枝新生 / 軸索伸長 / ネトリン-1 |
研究概要 |
軸索ガイダンス因子ネトリン-1が大脳皮質ニューロンにおいて発揮する生理作用は、齧歯類の初代培養系を用いた過去の研究より、発生過程初期においては軸索伸長の促進であるが、後に軸索分枝新生の促進に転ずるものと考えられる。本研究ではこのネトリン-1作用の転換について、ネトリン-1シグナルの受容と伝達、ならびにニューロンの示す応答のそれぞれにどのような変化がみられるかを調べ、その全体像を明らかにすることを目指す。 ニューロンの軸索伸長に関しては多数の知見があり、その際ガイダンス因子類は軸索先端の成長円錐において感知されることなどがわかっている。一方、軸索分枝新生は、一本の軸索が複数の標的に投射することを可能にする重要な機構であると考えられるが、その実体については未知の部分が多く、これを解明することが本研究の目的を果たすうえで大きな課題となる。 研究計画初年度となる平成23年度は、分枝新生期の大脳皮質ニューロンにおけるネトリン-1シグナルの受容について解析を行った。ハムスター新生仔大脳皮質より調製した初代分散培養に4時間のネトリン-1刺激を行ったところ、一次軸索上の分岐数増加が確認されたため、以後この実験系を用いて、ネトリン-1依存的な分枝新生の観察・定量化を行うこととした。この分岐数増加はDCCに対する機能阻害抗体の添加により阻害されたことから、ネトリン-1依存的な分枝新生においては、種々のネトリン受容体のうち特にDCCの貢献が大きいことが明らかになった。一方、細胞膜上の脂質ラフトを破壊した場合にもネトリン-1依存的な分枝新生の阻害がみられ、さらに脂質ラフト画分においてDCCの存在が確認された。これらのことから、ネトリン-1依存的な大脳皮質ニューロンの軸索分枝新生に、DCCの脂質ラフトへの局在が関与している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は次年度 (平成24年度) に予定していたネトリン-1シグナルの受容についての解析であるが、予備的な実験で興味深い結果が得られたことからまず先に取り組むこととした。得られた研究成果の一部をグループ内のセミナーや国内外の学会で報告し議論を行ったところ、電子顕微鏡を活用した微細構造の形態学的解析も有効な手段の一つであると考えられたため、新たに研究計画に組み入れた。このように研究遂行順序の変更や、当初計画には無かった新手法の導入があったものの、全体として達成度はおおむね予定通りであるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度はまず23年度に続き、分枝新生期の大脳皮質ニューロンにおけるネトリン-1シグナルの受容について調べる。軸索シャフトにおけるDCCの脂質ラフトへの局在の様式について、微細構造の形態学的解析や生化学的解析により追究し報告する予定である。 次に、大脳皮質ニューロンがネトリン-1に対して示す応答の解析に取り組む計画である。大脳皮質ニューロン軸索におけるネトリン-1依存的な分枝新生は、これまで専らハムスター新生仔由来の初代培養系を用いて研究されてきた。ネトリン-1刺激の後には分枝新生に先立ち、軸索シャフトで糸状仮足の出芽と退縮とが盛んにおこることが報告されており、この状態が分枝新生反応の初期段階にあたる可能性が考えられている。これまでに我々の行った予備的な実験では、胎生16日マウスの大脳皮質に由来する培養ニューロンでも、4時間のネトリン-1刺激に応じ軸索分岐数の増加がみられた (なおハムスターの胎生期はマウスよりも短い16日間である)。今回、胎生16日マウス由来の大脳皮質ニューロンにおいても、ネトリン-1刺激に反応してシャフトにおける糸状仮足出芽頻度の上昇がみられるか形態学的方法により確かめる予定である。 一方、胎生13日マウス由来の大脳皮質ニューロンにおいては、ネトリン-1依存的な軸索伸長の報告が過去になされている。本研究ではまずこれを追試するとともに、軸索伸長反応を定量的に示す方法を確立する計画である。次いで、胎生13~16日の各時期のマウス大脳皮質より調製した初代培養系を用いて、大脳皮質ニューロンのネトリン-1に対する応答が発生の進行に伴い、軸索伸長から、シャフトにおける糸状仮足出芽とそれに続いて起こる軸索分枝新生へと転換する様子を捉えたいと考えている。 平成25年度には大脳皮質ニューロンにおけるネトリン-1シグナルの伝達に関する解析を予定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度後期においては、先の前倒し支払請求 (23年10月) 時の実験計画を一部変更し走査電子顕微鏡を用いた解析を主に行ったために、研究費に次年度使用分が発生した。この次年度使用分は、かねてより計画していた細胞生物学実験を、時期のみ変更し実行するための費用に充てる考えである。 平成24年度における新規請求分の研究費は、細胞生物学実験用の器具・試薬類を購入するために前述の次年度使用分と合わせて使用するほか、動物実験や細胞培養に係る費用、ならびに研究成果を発表するための費用に充当する予定である。
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