足細胞および足細胞関連細胞は多細胞動物において原尿産生装置の主要部を形成し、原尿中へのタンパク質の漏出を防いでいる。多くの動物において足細胞の基本構造は共通だが、形態や発現分子種に様々な修飾がみられる。本研究では、足細胞が作る濾過バリア構造(スリット膜)の進化・高度化の過程を構成分子種ならびに超微形態の観点から明らかにすることを目的としている。 特に本年度は原始的な無脊椎動物であるプラナリア(扁形動物)の炎細胞(足細胞関連細胞)におけるスリット膜構成分子の探索を行なった。炎細胞の形態は脊椎動物の足細胞からは大きくかけ離れるものの、濾過部にスリット膜様構造を形成し、これが濾過バリアを成していると推測されている。そこで、プラナリアにおいて脊椎動物においてスリット膜の必須構成要素であるNephrin(実際にはそのオルソログ)が利用されているかを検討した。リュウキュウナミウズムシのESTデータベース(慶応大学 松本緑教授作製)に存在したnephrinオルソログの発現をin situハイブリダイゼーション法により検討したところ、炎細胞の分布と類似した発現パターンが得られた。しかし、この標本をさらに抗アセチル化チュブリン抗体でラベルし炎細胞の位置とnephrinの発現部位を比較したところ、nephrinは炎細胞以外の細胞に発現することが判明した。したがって、炎細胞という原始的な段階では、nephrinがスリット膜形成には用いられず、その他の用途に利用されており、多細胞動物の進化過程のどこかでスリット膜の構成要素として転用されることが明らかとなった。なお、プラナリアにおけるnephrin発現細胞の同定は現在進行中である。
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