研究概要 |
骨格筋の成長を抑制するTGFβスーパーファミリーのマイオスタチンに対して拮抗する作用をもつWnt4を中心に,骨格筋形成と筋芽細胞の分化における筋肥大効果を他のWntファミリーやWntシグナル調節分子と比較し,このシグナルが骨格筋再生における作動薬となり得る可能性を検討した。Wnt4はマイオスタチン欠損マウスでその発現が上昇し,ニワトリ胚で強制発現すると骨格筋が肥大化する。しかし,Wnt4組換えアデノウイルスを作成し,マウス前脛骨筋で強制発現させたが,筋組織の肥大に有意な効果は見られなかった。一方,筋芽細胞株C2C12を用いて筋分化におけるWntシグナル経路に関与する因子の変動をQPCRで分析すると,Wnt4のみならずWnt6, Wnt9a, Wnt10a, Sfrp2, Porcupineの有意な発現上昇が見られた。これらWntファミリーのうち,過剰発現したときに筋分化の活性が顕著に見られるのはWnt4, Wnt6, Wnt9aであった。C2C12で過剰発現したとき,Wnt4はβカテニン経路と拮抗することにより筋分化を促進していることがわかった。さらに,抗癌剤として開発されたβカテニン/TCF複合体形成の阻害薬FH535,キナーゼ阻害剤のK252aに筋分化促進作用があることが判明した。標準および非標準のWntシグナル経路に影響するこれらの低分子化合物は,Wnt/βカテニン経路の切り換えを介して筋分化を調節していることを示唆しており,筋疾患に対する治療薬として利用できる可能性を示している。
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