研究課題/領域番号 |
23590231
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井関 尚一 金沢大学, 医学系, 教授 (50167251)
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キーワード | 唾液腺 / 顎下腺 / 導管系 / 性差 / アンドロゲン / マウス |
研究概要 |
1) マウス顎下腺の導管系は著しい性差をもち、各種増殖因子を産生する顆粒性導管はもっぱら雄の顎下腺で発達する。アンドロゲン受容体(AR)を欠損するマウス(ARKO)の顎下腺を調べたところ、雄の顎下腺導管系の発達およびEGFやNGFの遺伝子発現が正常雌マウスの顎下腺よりさらに低かった。正常雌マウスにアンドロゲンであるテストステロンを投与すると、線条部導管が顆粒性導管に分化して遺伝子発現も上昇したが、ARKO雄ではテストステロンの効果は全くなかった。このことから、マウス顎下腺導管系の性差は古典的なARを介することが証明された(論文投稿中)。 2) マウスの3大唾液腺において消化酵素のアミラーゼはもっぱら耳下腺でつくられるが、顎下腺と舌下腺におけるアミラーゼの産生については異論がある。そこで雌雄のマウスの顎下腺と舌下腺についてアミラーゼのmRNAおよび蛋白質の発現と局在を、定量的ならびに組織化学的方法で調べたところ、顎下腺ではmRNAと蛋白質とも顆粒性導管細胞に強い発現が、腺房細胞に弱い発現が見られた。また舌下腺では、漿液性半月細胞のみに比較的強い発現が見られた(論文準備中) 3) 細胞骨格蛋白質のケラチン5(K5)は、マウス顎下腺導管系細胞の一部に発現するとされるが、詳細な産生細胞の同定は行なわれていない。そこでマウス顎下腺の生後発達においてK5の免疫組織化学的局在を追求したところ、K5は筋上皮細胞にまず局在した。さらに、生後まもなくは導管系細胞に広く存在するが、介在部導管が形成される2週以降は、介在部導管のうち腺房に近い顆粒性介在部導管細胞には存在せず、線条部導管との境界部分の細胞および排出管の基底細胞に局在した。このことから、K5は筋上皮細胞のマーカーであるとともに、介在部導管や排出管の細胞が線条部導管細胞に分化するときの前駆細胞マーカーであることが示唆された(研究継続中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アンドロゲン受容体欠損マウス(ARKO)の顎下腺の分析は予定通り終わり、その導管系の性差(アンドロゲン依存性の線条部細胞から顆粒性導管細胞への分化)は古典的ARを介することが証明された。そこで、非古典的なシグナル伝達経路によるアンドロゲンの作用を調べるためのモデルとしてARKOを用いることができる。計画書に書いた通り、ARKOマウス雄にテストステロンを投与する前と後との顎下腺のmRNAを、マイクロアレイ法により網羅的に解析する予備実験を行なったところ、複数の遺伝子が動くことがわかった。また細胞内シグナル伝達を解析するために顎下腺の細胞培養を行い、まず正常雌の顎下腺の細胞培養に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
アンドロゲン投与によりARKOマウス雄の顎下腺で発現誘導または抑制される遺伝子をマイクロアレイ法およびPCR法により解析する。ARKOマウス雄の顎下腺の培養系において、これらの遺伝子の発現を調節するシグナル伝達経路を、種々の薬物投与や遺伝子導入により解析する。さらに顎下腺の性差において遺伝子発現を制御するmiRNAが関与する可能性を探求するため、雌と雄、あるいは正常とARKOの顎下腺抽出RNAについて、miRNAのマイクロアレイ法により網羅的な解析を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
残った約120万円の研究費は、遺伝子改変動物の維持管理、細胞培養実験、遺伝子解析実験、またmRNAおよびmiRNAのマイクロアレイ用試薬などの購入に使用する計画である。
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