研究課題
シナプス形成に関与するタンパク質の異常により学習障害、痴呆や自閉症の精神症状発現が引き起こされることが近年知られるようになってきた。しかしながら、シナプス形成の分子機構の解明自体はいまだ十分ではない。本研究では、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸(PIP3)高感度に結合するLL5βが海馬の神経細胞に発現し、LL5βをノックダウンおよびノックアウトした神経細胞のスパインでは、未成熟なフィロポディアやthin型スパインが増加することからLL5βがスパイン成熟に重要な役割を果たしていることを見い出した。さらに、同分子がシナプス後肥厚部(PSD)の構成蛋白であるPSD-95の移動やAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA-R)分子のエンドサイトーシスに関わり長期抑圧(LTD)を制御することを明らかとした。特に今年度は、昨年度に引き続き、LL5βはスパインでのPIP3への反応を検討した。PIP3の減少(PI3K阻害剤であるLy294002の投与)によりスパイン内に局在するGFP-LL5βの数が減少することを観察した。さらに、蛍光回復法によりLy294002の投与群ではGFP-LL5βのrecoveryが非投与群と比較して蛍光回復が遅れることを見い出した。このことからPIP3がスパインでのLL5βの局在の変化および移動を制御すると考えられた。また、野生型神経細胞ではLy294002処理により膜表在GluR2/総GluR2の発現が減少したが、LL5β-KO神経細胞では有意な変化はみられなかった。さらに、脳スライスを用いて電気生理学的にLTD を誘導して解析したところ、LL5β-KOマウスではLy294002処理によりLTDの変化が観察されなかった。よって、LL5βがPIP3に応じ、LTDを引き起こすことに働いていると考えられた。
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