本研究の目的は、「EMTプロセスの典型的なモデルである神経堤細胞発生を解析することによりEMT現象に関与する分子、発生メカニズムを解明する」ことである。この目的により、神経堤細胞に発現する転写因子Sox10を蛍光タンパク質で標識したES細胞とマウスを作成し、EMT現象を試験管内、生体の両面で観察できる実験系を確立した。本研究では前年度までに、EMT現象に関連あると思われる33個の転写因子を選び出し、それら全てを試験管内でのEMT誘導系で過剰発現させると、Sox10の発現が上昇することを観察し、これらの遺伝子がEMT現象を亢進させている可能性を見出した。この結果を踏まえ、平成25年度には、個々の転写因子をEMT誘導系にレトロウィルスを用いて遺伝子過剰発現させ、Sox10の発現を観察することにより、EMT現象を制御している転写因子の同定を試みた。これらの遺伝子のうち少なくとも3種類が、試験管内のEMT現象での過剰発現で、Sox10の発現を有意に上昇させることが確認できた。さらに、これらの遺伝子をマウスから単離した上皮細胞に導入しても、Sox10の発現を有意に上昇させることが確認でき、EMT現象亢進に関係していることが強く示唆された。これらの転写因子のEMT現象の内での詳細な働きは今後解析を予定している。
|