研究概要 |
急速凍結・凍結割断レプリカ標識(QF-FRL)法を用いた現在までの検討により,ラフトの主要因子である糖脂質のGM1およびGM3が,細胞膜外葉においてコレステロール依存性にクラスターを形成することを明らかにした.本研究ではQF-FRL法を用いて,細胞膜内葉に局在するラフト分子であるH-Ras, Fyn, Gαなどについて局在解析を行い,これら分子のクラスター形成がコレステロールに依存するかを検討することを平成24年度の研究計画にしている.そして,モデル系として既にラフトに存在することが示されているMyrPalm-mCFPについて分布解析を行い,その対照であるGerGer-mCFPと比較・検討を行う準備段階として,これらクローン遺伝子をパーマネントに発現する細胞株の樹立を試みている.すでにこれら遺伝子が一過性に発現することをHela細胞で確認し,薬剤耐性株を選択する. また,従来のQF-FRL法では細胞内を割断することが出来ず,細胞内オルガネラ膜での脂質の微細構造を検討することが困難であった.代表者らはQF-FRL法を改良することにより,培養細胞並びに生体内組織において細胞内が割断され効率的に細胞内オルガネラを観察できる方法を確立した.すでに膵臓の外分泌細胞の各オルガネラでのPI(4,5)P2の分布を明らかにし,そして現在,培養細胞内で観察されるオルガネラ膜を同定するために,それぞれのオルガネラに特異的に局在するマーカーを細胞内に発現させ,レプリカ膜上で標識することを試みている.
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今後の研究の推進方策 |
23年度の研究計画であった以下のことを行う.A.膜脂質を特異的に認識する新たなプローブの開発: 各リン脂質に特異的に結合する蛋白質ドメインとGSTまたはMBP融合蛋白質を形成し,標識の特異性を確かめる.B.細胞膜内葉に存在するラフト分子の検出と分布解析: 1) 内在性ラフト分子であるH-Ras, Fyn, Gαなどについて局在解析を行い,これら分子のクラスター形成がコレステロールに依存するかを検討する.2) 成長因子刺激などによる上記ラフト分子の局在の変化を解析し,PI(4,5)P2などとの関係の変化も解析する.C.細胞内オルガネラにおける脂質局在の可視化方法の確立: 1) 昨年度までの検討により細胞内オルガネラ膜を効率良く検出でき,各オルガネラを同定するマーカーを選択し,細胞内オルガネラを解析する方法を確立する.2) 各オルガネラ膜上でのリン脂質の二次元的分布を空間統計学的に解析する.3) 種々の生理的,実験的な条件でのリン脂質の分布変化を解析する.D.形質膜の外葉・内葉の相関を解析する方法の確立: 1) 双面レプリカを作製し,同一細胞膜の相補的な外葉・内葉を効率的に同定する方法を確立する.相補的レプリカ技術に必要なレプリカ作製用試料台を新たに設計・作製する,細胞を培養する基質に非対称の形状の目印を刻印する,細胞浮遊液に何らかの粒状物質を入れる, レプリカの断片化を防ぐため,Lexan樹脂でコートし,物理的に安定化する方法を用いるなど,精度と解析効率を高める方法を創出する.2) 上記1)の双面レプリカ法を用いて,細胞膜外葉のGM1, GM3, GPI結合蛋白質と,内葉のラフト分子であるH-Ras, Fyn, Gαなどの内在性ラフト分子,あるいはモデル系として既にラフトに存在することが示されているMyrPalm-mCFPの相関を定量的に解析する.
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