研究課題/領域番号 |
23590236
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石村 和敬 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (90112185)
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研究分担者 |
小野 公嗣 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 助教 (00548597)
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キーワード | 海馬 / 神経細胞 / 神経ステロイド / ステロイド合成酵素 / 免疫組織化学 / 酵素発現 |
研究概要 |
1) 雄性ラットの脈絡叢についてステロイド合成酵素の局在を調べたところ、脈絡叢の上皮細胞に存在することがわかった。酵素の一つの17β-水酸基脱水素酵素については電顕レベルでの免疫組織化学によって小胞体の膜に存在することも突きとめることができた。また、去勢によって一部の酵素の発現が変化することも判明した。これらの酵素があるにも関わらず脳脊髄液中のステロイドホルモン濃度は大きな変化を示さないことが知られていることから、脈絡叢のステロイド合成酵素は脳脊髄液中に末梢由来のステロイドホルモンが入らないように代謝している可能性が示唆された。脈絡叢には他にも多くの酵素が存在することから、それらについても同じことが言えるかどうか検索する必要がある。この成果は第118回日本解剖学会学術集会(平成25年3月30日、高松市)において発表した。 2) 雌性のウイスターラットとフィッシャーラットについて、卵巣摘除後にストレスを加えたところ、フィッシャーラットの海馬でのみ顕著な神経細胞の減少が見られた。卵巣摘除のみ、あるいはストレス負荷のみではこのような現象は見られなかった。この結果を人に当てはめると、家系によっては閉経後にストレスがかかると海馬の神経細胞が減少する、すなわち認知症を発症する可能性があることを示唆し、さらに検索が必要である。 3) ウイスターラットの海馬において、卵巣摘除によって一過性にエストロゲン合成酵素の発現が増加し、その後対照レベルに戻った。他の酵素にも変化が見られた。海馬の神経細胞のエストロゲン合成能は末梢の性ホルモンの影響を受けることが示唆された。この成果は第14回国際組織細胞化学会(平成24年8月29日、京都市)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は中枢神経系、とりわけ海馬におけるステロイド産生の生理的意義を解明することを目的としている。これまで、海馬の神経細胞にステロイド産生に関わる酵素が存在することを、免疫組織化学的、生化学的に示してきた。また、これらの酵素が去勢などの条件下で変化し、末梢由来の性ステロイドの影響を受けることも示した。今年度特に意義のあった成果は、ラットの系統によって海馬の神経細胞の変化に差があることを見出したことである。従来閉経後の女性に認知症の発症が多い傾向があることが知られていたが、その原因の一つを解明しつつあると考えている。すなわち、エストロゲンの神経保護作用を一部説明可能になったと考える。最終年度にはこれをより確実なものにしていきたいと考えている。以上のことから、本研究は順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように24年度に、卵巣摘除とストレス負荷という同じ組み合わせであっても、ラットの系統によって海馬の神経細胞の示す変化に違いのあることが明らかとなった。今年はさらに著しい神経細胞の減少を示したフィッシャーラットについて、ウイスターラットとどの部分が違うのか、エストロゲン感受性か、神経細胞栄養因子の産生能か、などを解明したい。これには遺伝子発現の変化などの検索も行う計画である。さらに、卵巣摘除フィッシャーラットにエストロゲンを投与して神経細胞の減少を食い止めることができるかどうかなども確認する。このメカニズムが解明できれば、人における加齢時の認知症の少なくとも一部が性ホルモンの減少とストレスの組み合わせによって起こりうること、更にはその予防策を講じることができることにつながると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまで、ラットの海馬に主眼をおいてステロイド合成酵素の局在とその発現変化を検索してきた。平成25年度は、24年度にフィッシャーラットで得た結果を更に確認するとともに、神経細胞の減少を防ぐ方法や何故ウイスターラットとの違いが生じるかを解明しなくてはならない。このためフィッシャーラット、ウイスターラットなどの実験動物の購入が必須である。また、免疫組織化学のための試薬類、遺伝子解析のための試薬類も必要である。更に、学会発表のための旅費も必要である。従って、次年度の繰越額はこれらの動物及び試薬類等の購入に使用する予定である。
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