研究課題/領域番号 |
23590240
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小川 登紀子 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任助教 (30382229)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 持続的ストレス / 細胞変性 / ゴルジストレス / 微細形態 / メラノトロフ |
研究概要 |
本研究は、持続的ストレスを与えたラットの下垂体中間葉Melanotrophに引き起こされるユニークな細胞死の分子メカニズムを解明することを目的としている。 ラットに持続的ストレスを負荷すると、Melanotrophは小胞体ストレスマーカーとして知られる転写因子GADD153 (CHOP)を発現し、やがて一部の細胞が細胞死に陥る。一般に、CHOPの発現を阻止することで細胞死が防御されることが知られているが、その機能については不明な点が多く残されている。そこで、本年度は、このラットモデルを用いた解析を行うとともに、CHOPノックアウトマウスを用いた解析に先立ち、野生型マウスによる基礎的データの収集を行った。 ラットモデルの解析では、Melanotrophの細胞変性過程で生じる、細胞内小器官の形態学的変化を、免疫組織化学と透過電子顕微鏡を用いて時系列的に観察した。これにより、細胞内小器官の機能後退を示す変化としては、小胞体の形態変化が先行して起こり、その後にゴルジ体形態の顕著な変化へ波及するものと考えられた。ラットモデル解析の最終目的としては、一連の細胞内小器官の変化のどの時点で、CHOPをはじめとする関連分子が発現するのかを明らかにすることである。次年度以降行う分子発現と関連づけた微細形態の観察は、この時系列的観察により得られた情報を基盤として行う。 マウスモデルの解析としては、野生型マウスを用い免疫組織化学、透過電子顕微鏡による微細形態観察およびRT-PCRによる分子発現解析により、基礎的データを収集した。マウスの中間葉Melanotrophも、持続的ストレスによりCHOP分子を発現することを確認した。一方で、ストレスによる細胞内小器官の形態変化には、ラットとは異なる点が見いだされ、CHOPの機能解析を行ううえで、重要な手がかりとなると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画していた研究のうち、ラットモデルを用いた解析はほぼ予定通りに行うことができた。また、次年度に予定していた免疫電顕観察の予備実験として固定条件の検討を行った。 マウスモデルの解析については、動物実験施設にて生じた感染事故の影響により、予定していたCHOPノックアウトマウスを用いた解析を行うことができなかった。現在、CHOPノックアウトマウスのクリーン化が完了し、実験に用いることのできる個体数が確保できたため、実験に着手したところである。しかしながらこの間、野生型マウスを用いた基礎データを蓄積した。具体的には、マウスに持続的ストレスを負荷するための実験手技を確立し、持続的ストレスによって、マウスの中間葉Melanotrophが小胞体ストレス状態に陥ることを確認することができた。この成果に基づいて、今後速やかにCHOPノックアウトマウスを用いた実験を開始できる。したがって、マウスを用いた実験計画の遅れについては、ほぼ問題ないものと考えている。 以上の理由により、総合的にはおおむね計画通りに進んでいると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、当初の予定通り、ラットモデルを用いた解析とCHOPノックアウトマウスを用いた解析を行う。 これまでのラットモデルMelanotrph細胞死過程時系列的観察により得られた情報を基盤として、分子発現との関連を明らかにする。その方法として、当初免疫電顕による観察を予定していた。しかしながらこれまでの予備実験の結果、対照となる分子のいくつかは、電子顕微鏡用組織での免疫反応が困難であることがわかった。そこで、免疫電顕に変わる手法として、免疫組織染色と隣接組織の走査電子顕微鏡観察を行うことを計画している。この手法については、手技の習得や標本作製条件の検討が必要である。 マウスの持続的ストレスモデルの解析は、野生型マウスの実験から得られた基礎的データを基に行う。まず、野生型マウスとCHOPノックアウトマウスのMelanotrophが、持続的ストレスによりそれぞれどのような形態変化を示すか、どのような違いが生じるのかを解析する。これについては、遂行上の問題はない。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当該年度においては、所属部署における教員数が減少し、例年に比べ教育業務(実習、講義および大学院生の指導)にあてる時間が大幅に増加した。また、動物飼育施設の感染事故の影響で、当初計画していたノックアウトマウスを用いた実験が進められなかった。以上の理由により、当該年度の予算の一部を次年度において使用することとした。 次年度は、当該年度に比べ教育業務が大幅に削減されるため、研究時間が十分に確保できる見込みである。また、当該年度に行うことができなかったノックアウトマウスを用いた実験も開始できる環境が整った。これをふまえて、次年度の研究費の使用内訳の概要を以下に示す。 物品費は消耗品費として使用する。予定している研究には現状の施設・設備で対応できることから、新たな設備備品の購入は計画していない。消耗品の内訳としては、としては、実験用動物、試薬および抗体等の購入が主な使途である。また、次年度内に所属部署を変わる予定であるので、新たに小型の機器およびガラス器具等の消耗品の購入が必要になることが見込まれるため、この費用として使用する。また、他機関にて研究遂行上必要となる技術の習得を計画していることから、これにかかる交通費と、学会参加にかかる経費を、旅費として使用する。研究の進展によっては、動物実験の補助として人件費を計上する。
|