研究課題/領域番号 |
23590240
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小川 登紀子 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 博士研究員 (30382229)
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キーワード | 持続的ストレス / Melanotroph / 微細形態 / CHOP/GADD153 |
研究概要 |
本研究の目的は、持続的ストレスを与えたラットの下垂体中間葉Melanotrophに起こるユニークな細胞死の分子メカニズムを微細形態の視点から解明すること、その過程で発現する転写因子CHOP (C/EBP homologus protein) の関与を明らかにすることである。 本年度の成果としては、ラットおよびマウスモデルの透過電顕による解析から、Melanotrophは小胞体ストレスを経てネクローシス様の細胞死を起こしていることが新たに明らかになった。細胞変性から細胞死に至る細胞内小器官のダイナミックな形態変化を解析する手段として、オスミウム-マセレーション法による走査電顕観察の手法を習得した。これにより3次元的観察が可能となり、より多くの情報が得られるようになった。 本研究のもう一つの目的である転写因子CHOPのMelanotrophにおける機能解析については、細胞死との関連について重要な情報が得られた。持続的ストレス負荷ラットの経時的な解析から、CHOPの発現よりも早期に、ネクローシスに結びつく変性細胞が出現することが明らかになった。また、CHOPノックアウトマウスMelanotrophの解析を集中的に行った結果、野生型マウスやラット同様にネクローシスが起こることが明らかになった。以上の成果から、CHOP分子は、少なくともMelanotrophのネクローシスの進行には直接関与していないものと考えられ、今後の研究遂行の方向性が明確になった。 これまでCHOPの機能解析を行う上で、CHOP発現細胞がきわめて限局的であることが問題となっていた。本年度、ストレス負荷方法を変えたモデルの検討を行った結果、CHOPの核集積を起こす細胞が飛躍的に増加し、これまでわかっていなかったCHOP発現細胞の微細形態がある程度明らかになるなど、より効率的な解析が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
持続的ストレスを与えたラットの下垂体中間葉Melanotrophに起こるユニークな細胞死の分子メカニズムを微細形態の視点から解明することを目的の一つとしている。本年度は、ラットおよびマウスモデルの主に透過電顕による解析から、Melanotrophに起こる細胞死がネクローシスであることが明らかにできた。さらに、本年度は当初計画していたオスミウム-マセレーション法による走査電顕観察の手法を習得した。免疫染色との同一細胞観察については、設備上の問題がクリアできなかったため断念したが、細胞内小器官の3次元的観察が可能となった。これにより来年度中に微細形態の時系列解析が終了できる見通しである。 もう一つの目的であるCHOP分子の機能解析の点では、これまでCHOP発現細胞が小数かつ限局的であることがネックとなっていたが、本年度モデルの改変を行ったことにより高頻度のCHOP発現系が実現し、効率的な解析が可能となった。CHOP発現細胞の細胞内小器官の形態を含めた表現形が観察できるだけでなく、CHOPの関連分子の解析に有用であり、CHOPノックアウトマウスを用いた解析にも応用できるものと考えている。 ラットモデルとCHOPノックアウトマウスを用いた解析から、CHOP分子の発現が直接的には、Melanotrophのネクローシスに関与していないことが示唆され、その分子機能を知るための実験系を組む上で重要な手がかりとなった。 以上の理由により、総合的にはおおむね計画通りに進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、主としてCHOPを高頻度に発現するよう改変したラットモデルを用いた解析を行う。モデルの改変により、CHOPの核集積は持続的ストレスの状態でより多くの細胞に発現させる(CHOP高発現モデル)ことができたが、ラットをストレスから解放することによりほぼすべてのMelanotrophに発現する(ストレス回復モデル)ことがわかった。これらの実験系を用いた透過電顕による解析をすでに進めており、今後走査電顕観察を併用することで、細胞内小器官の詳細な時系列解析を行う。 ストレス回復モデルでは、ほぼすべてのMelanotrophにCHOPが発現することから、CHOPはストレスからの回復・細胞修復の過程で発現し、何らかの機能を有するものと考えられる。そこで、ここを基点としてCHOPが消失する経過を、形態学的観察と関連分子の遺伝子およびタンパク発現の点から解析する。また、このモデルを基に、CHOPノックアウトマウスおよびMelanotrophの初代培養系を用いた解析につなげる。ノックアウトマウスについては現在より効率的な利用方法を検討しており、本研究をまとめる方針である。 また、CHOP高発現モデルでは、通常のモデルで観察されるネクローシスとは異なる経過の細胞変性像が観察されており、ネクローシスとは異なる分子メカニズムが働いているものと推察される。ストレスの負荷方法により、Melanotrophに生じる細胞変性がなぜ形態学的に異なるのか、CHOP分子はどのように関与しているのかが新たな課題となる。この点の解析には、マウスモデルで同様の細胞変性を再現できるか今後検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次度は本研究の最終年度にあたることから、研究成果をまとめる必要がある。これをふまえて、次年度の研究費の使用内訳の概要を以下に示す。 物品費は消耗品費として使用する。予定している研究は現状の施設・設備で対応できることから、新たな設備備品の購入は計画していない。消耗品の内訳は、実験用動物として改変モデルの解析と初代培養実験に用いるラットおよび野生型マウスを購入する。このほか試薬、抗体、培養液およびガラス器期等の購入が主な使途である。 学会発表を行うための参加経費、共同研究者との打ち合わせに要する交通費等を旅費として使用する。 人件費・謝金として、論文の校閲にかかる費用を支出する。 その他の経費としては、ノックアウトマウスの繁殖・維持と動物実験のための動物実験施設の利用にかかる経費と論文投稿にかかる経費を支出する。
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