研究課題/領域番号 |
23590242
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 雅彦 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (70270486)
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キーワード | 腎臓 / 糸球体 / 足細胞 / スリット膜 / 濾過 / 密着結合 |
研究概要 |
平成24年度においては当初の計画通り、腎臓の糸球体上皮細胞特異的にZO-1を欠損したマウスの解析を詳しく進めることが出来た。 Creリコンビナーゼを腎糸球体上皮細胞特異的に発現するNephrin-Creトランスジェニックマウスとfloxed ZO-1マウスを交配して誕生した目的マウスの多くが成長障害を示し、6週齢までに衰弱して死亡に至った。成長障害を示さない一部のマウスについては、解剖の結果ZO-1の欠損効率が低く、ほとんどの糸球体上皮細胞においてZO-1分子の発現が保たれていた。こうした現象はこれまでにも知られており、確率的に起こる不可避の事象であるため、ZO-1の欠損に関してはCreリコンビナーゼ遺伝子の有無だけでは判断できず、実際に解剖して腎臓に対するZO-1の免疫染色を行って確認する必要があることが明らかになった。 4~6週齢マウスの腎臓組織標本をHE染色, PAS染色, PAM染色し、腎臓病理学の専門家に意見を求めたところ、糸球体に巣状および分節性の硝子化が生じるヒト巣状分節性糸球体硬化症に類似した病理像であることが判明した。さらに透過型電子顕微鏡を用いて、微小形態に関する検討を加えた結果、糸球体基底膜の肥厚、上皮細胞足突起のびまん性消失が認められた。また、早期より尿中にアルブミンなどのタンパクが漏れ出てくることから、腎糸球体上皮細胞においてZO-1の発現が低下すると、タンパク尿によって糸球体障害が進行し、やがて全節性の硬化が起こり、生命活動に著しい影響を及ぼすものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画として平成23年度に掲げた主たる目標が、上皮バリアの制御に重要な役割を果たす密着結合の構成分子ZO-1をコンディショナルに欠失可能なfloxed ZO-1マウスと腎臓の糸球体上皮細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するトランスジェニックマウスを交配することによって腎糸球体上皮細胞においてZO-1を欠失したマウスの創出を行うことであった。 目的とするマウスが得られた場合、ZO-1の欠損によって糸球体における濾過機能に異常を生じるかどうかを、尿中タンパク質・ブドウ糖値などを測定して腎機能障害の程度について検討するのが平成24年度の目的で有り、この点について概ね明らかにすることが出来ている。 平成25年度の計画として、各種臓器のパラフィン切片および超薄切片を作製し、糸球体上皮細胞におけるZO-1の欠損が及ぼす影響について、足突起・スリット膜の微細構造に始まり、上皮細胞、糸球体構造、尿細管をふくめた腎組織の構築、さらに他の組織に障害が及ぶかどうか、光顕・電顕を用いて分析することを予定しているが、腎臓に関する解析は平成24年度に既に着手することができている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで生化学的および組織学的な解析を中心に進めてきているが、今後は細胞生物学的な検討に力を注ぎ、障害を生じる分子機構について明らかにして行く予定である。 濾過細隙が開く前の糸球体上皮細胞同士は通常の上皮細胞と同様に密着結合によって互いに結合しているが、形態形成が進むにしたがい密着結合がスリット膜に置き換わり、足突起の間が開いて濾過細隙が構築される。一方で足細胞が足突起を失う病的な状態では、スリット膜に代わって密着結合が糸球体上皮細胞同士を連結するようになる。 そこで、スリット膜を構成する分子、細胞間接着に関与する分子、ZO-1に結合する分子が、糸球体上皮胞におけるZO-1欠損によってどのような影響を受けるのか、発現ならびに局在についてまず明らかにする。得られる情報をもとに、培養糸球体上皮細胞を用いてZO-1欠損との因果関係について解析を進めたいと考えている。 また、糸球体上皮細胞特異的ZO-2欠損マウスについて、ZO-1欠損マウスと比較しながら検討を行っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続きマウスの繁殖飼育を行う必要があるため、そのための費用として毎月およそ4-5万円を要すると思われる。 さらに、細胞生物学的な解析を行うために、糸球体上皮細胞分子に対する抗体や遺伝子、また培養試薬および細胞への遺伝子導入試薬などの購入のために研究費を使用することを計画している。
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