本研究は、体内恒常性の維持調節に重要な腎糸球体による血液濾過の分子機序について、糸球体を構成する分子個々の機能解析から理解を深めることを目的としている。 血液濾過を担う腎糸球体の主要構成要素の一つである糸球体上皮細胞は、足突起と呼ばれる特殊な構造を介して濾過に必要なslit diaphragmを形成している。隣り合う細胞間に形成されるこのslit diaphragmは、分化前の糸球体上皮細胞に存在するアドヘレンス結合が変化して構築される構造と考えられてきた。しかしながら、アドヘレンス結合の構成分子を欠損させても、糸球体濾過装置の構造および機能に顕著な異常は認められなかった。そこで、他の細胞間接着構造である密着結合の構成分子を糸球体上皮細胞特異的に欠損させ、糸球体構造および濾過機能への影響を解析した。その結果、ZO-1を欠損する糸球体上皮細胞では足突起が糸球体基底膜から剥離し、slit diaphragmが正常に形成されなかった。変異個体は生後早期よりタンパク尿症に陥り、成長障害を伴って衰弱化し、6週齢前後に死亡が確認された。分子細胞生物学的解析から、正常な糸球体上皮細胞においてZO-1はslit diaphragmを構成する膜蛋白質と結合しており、ZO-1の欠損によって膜蛋白質のturn overと局在が大きく影響を受けることが明らかになった。一方で、分子構造的また機能的にZO-1と類似したZO-2を欠損させた場合は、個体レベル・組織レベルで顕著な変化は認められなかった。 以上の結果から、血液濾過の主要構成要素である糸球体上皮細胞間slit diaphragmは、特殊な密着結合の一つと考えることができる。
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