本年度は、顎下腺の分枝形態形成での細胞の変形や移動に果たす基底膜―アクチン細胞骨格系の役割を明らかにするために、ミオシンⅡ阻害剤のブレビスタチン、と焦点結合キナーゼ阻害剤のPF573228を胎生期顎下腺の種々培養系に添加し、その効果をアクチン細胞骨格系成分の分布と細胞の運動や変形の観点から検討した。 胎生13日マウス顎下腺原基よりディスパーゼ処理により上皮を分離し、1)マトリゲルに包埋し、EGF、FGF7等を含有する無血清培地で培養、2)iMatrix511(組換え基底膜ラミニン-10フラグメント)コートの培養皿上で単層培養した。各培養系の一部にブレビスタチン (7.5μM)又はPF573228 (2μM)を添加し、単層培養系ではアクチン線維・ミオシンⅡ・焦点結合キナーゼ・リン酸化チロシンの局在、マトリゲル包埋培養系ではクレフト形成や細胞運動に及ぼす影響、を調べた。 単層培養条件で、顎下腺上皮細胞には明瞭なストレス線維や焦点結合を形成した。焦点結合に一致したリン酸化チロシンの局在も確認できた。ブレビスタチンはストレス線維形成と焦点結合を阻害した。一方、PF573228処理ではストレス線維や焦点結合の構造は保たれたものの焦点結合領域のリン酸化チロシン陽性反応が消失した。マトリゲル包埋培養系では、共に分枝形態形成を強く阻害したが、その様式は異なった。これらより、ブレビスタチンはストレス線維の形成阻害、PF573228は焦点結合を介した細胞内への内向きのシグナル伝達を阻害し、それらは異なった機序で上皮分枝形態形成にかかわると考えた。
|