研究課題/領域番号 |
23590245
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
森川 俊一 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (70339000)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞シート工学 / 周皮細胞 / 内皮細胞 / 基底膜 / 血管新生 / 免疫組織化学 / 電子顕微鏡 / レクチン |
研究概要 |
東京女子医科大学・先端生命医科学研究所の開発による細胞シート工学技術は培養細胞をシート状に積み重ね(積層化)、三次元レベルの人工組織を作成することを可能とした。この細胞シートを用いた三次元組織移植法は、再生医療において従来の臓器移植法や細胞移植法の欠点を補う優れた移植法として注目を集めている。細胞シートはレシピエント組織への生着性に優れており、臨床の場における移植の試みにも数々の成功を収めている一方、移植した細胞シートにレシピエント側からの血流がいかにして流入するのかという点の細胞レベルの検証は未だ不十分である。そこで我々は本研究において、ラット心室壁由来細胞を用いて作製した細胞シートを同型の動物に移植したモデルを材料として、移植シートと宿主間の血流開通機構解明に向けての詳細な細胞組織化学的・微細構造学的検索を企図した。心室壁由来細胞シートは、その細胞成分として予め血管内皮細胞も含んでいるが、予備的実験では移植前の培養段階(すなわち無血流状態)で、これらの血管内皮細胞がシート内に既に未成熟な血管を形成することが確認されている。また、このシート内血管とレシピエント組織を架橋する血管が移植後24時間以内という極めて早期に形成されること、および、この架橋血管においてシートおよびレシピエント由来の双方の血管内皮細胞がキメラ状に結合する部位に周皮細胞が密に分布して観察されることも併せて明らかとなっている。平成23年度の研究では、この血管連結部における周皮細胞に注目し、構造と信号伝達経路等の側面から検索を行い、移植シートとレシピエント間の血流開通機構解明という最終目的に結びつく種々の新所見を得ることができた。詳細については以下の「現在までの達成度」に記す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
樹脂包埋準超薄切片を用いた観察からは、細胞シート移植組織における血管連結部に集積する周皮細胞が、血管璧に緩やかに付着し細胞突起を間質に突出させる、といった動的な形態を示すことが明らかとなった。対照的に正常微小血管では周皮細胞は静的な形態を示し、血管壁に密接して内皮細胞の安定化に働くことが知られている。この周皮細胞の動的な形態は、腫瘍血管新生モデルにおける活性化した周皮細胞の所見(Morikawa et al. Am. J. Pathol. 2002)と一致するものであり、移植組織における血管連結にも周皮細胞の活性化が必要となることが推察された。 また、多重免疫染色法を用いた検索結果からは、血管連結部において血管壁に連絡性を持たない間質細胞も周皮細胞マーカーNG2 proteoglycanを発現することが明らかとなり、血管連結に際して間質から周皮細胞の前駆細胞が動員されることが示唆された。GFP発現動物をレシピエントに用いた検索から、これら前駆周皮細胞と考えられる細胞の多くが細胞シートに由来することも併せて明らかとなった。さらに、Platelet Derived Growth Factor B (PDGFB)の発現が、血管連結部を含め広く細胞シート内に認められることも明らかとなった。PDGFBはその受容体PDGF Receptorβ(PDGFRβ)とともに、周皮細胞の血管壁への動員のための重要な信号伝達経路を形成することが知られており、この観察所見からは、血管連結のみならず、移植後に細胞シート内で進行する血管網の発達機序においても周皮細胞が不可欠であることが示唆された。以上のように、平成23年度の検索では、細胞シート移植において間質より動員される周皮細胞が、早期の血管連結のみならず細胞シート内の血管網発達にも大きく寄与することを示す数々の新所見を得ることができている。
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今後の研究の推進方策 |
周皮細胞による血管連結機序について、引き続き解析を進める。移植後24時間以内にシート内血管とレシピエントを架橋する血管形成されることから、移植後24時間以前の段階から微細構造学的・免疫組織化学的に周皮細胞を追跡し、その機能的役割を詳細に検証する。予備的実験では、血管連結の壁が周皮細胞も含めてひと続きの血管基底膜で覆われることが観察されており、この基底膜が内皮細胞の「足場」を構成し、この足場に沿って内皮細胞が血管連結を遂行すると推測されている。また、この足場は、基底膜成分の産生能を有する周皮細胞が形成するものと考えられるが、周皮細胞を血管連結部に動員するPDGFBは具体的にどの種の細胞がいかなる機序で提供するのか、また、周皮細胞による足場提供は内皮細胞の伸長に先んじて起こるのか、あるいは内皮細胞の伸長と同時並行で起こるのか、といった詳細な事項について、移植後数時間の時点から周皮細胞の動向を追跡することで詳細に検索していく。 さらに、平成23年度の検索で周皮細胞による移植細胞シート内の血管網発達への寄与も強く示唆されたことから、細胞シート内の血管新生あるいは新生後の血管癖の安定化に周皮細胞がいかに機能するのか、腫瘍血管新生モデルの検索結果との比較や、血管壁の成熟・安定化に機能すると考えられる種々の分子に注目した検索を行なっていく。上記の基礎的実験を通じて、細胞シート移植における周皮細胞の機能的役割がより詳細かつ具体的に明らかになった時点で、PDGFB-PDGFRβ経路の阻害薬等を用いて作製した、周皮細胞を欠く細胞シート移植モデルを材料とする応用実験を行い、基礎実験の成果と比較しつつ、細胞シート移植における周皮細胞の機能的役割について最終的な答えを獲得し、研究成果を臨床の場に貢献できる技術開発(生着率不良シートへの前駆周皮細胞の付加等)に寄与できるような水準まで高めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度には、細胞シートとレシピエントを結ぶ架橋血管の形成過程と周皮細胞の関わりを微細構造学的・免疫組織化学的に移植後数時間の早期から詳細に追跡する。微細構造学的検索には透過型電子顕微鏡を用いるが、このために超薄切片作製用のダイヤモンドナイフ(Diatome社)の購入を考えている。また、免疫組織化学的検索には、多重染色により血管壁を可視化するための周皮細胞マーカーおよび内皮細胞マーカーをはじめ、内皮細胞伸長のための足場となる基底膜成分を主とした細胞外マトリックスのマーカー、PDGFB・PDGFRβ主とした信号伝達経路に関わる分子を可視化するマーカー、および細胞シート内の血管新生および新生血管の安定化に関わる分子のマーカーが必要である。Abcam社やCHEMICON社等、信頼のおけるメーカーから良いものをさらに吟味し購入する。さらに、血管癖の成熟度に関連して、血管壁の透過性をみるために、トマトレクチンをはじめとした蛍光標識およびビオチン化レクチンをVector社から購入する。 また、我々の教室でLeica社の共焦点顕微鏡と共に免疫組織化学的検索の主要な機器として動いているKeyence社のオールインワン顕微鏡は、資金上の理由から、これまで40倍までの対物レンズしか備えておらず、主に弱拡大観察に使用してきた。しかしながら、この機器では蛍光輝度計測をはじめとした多種の有用な解析が可能であるため、強拡大観察でもこれらの解析が行えるよう、Nikon社の60倍および100倍の対物レンズの購入も計画している。 平成24年度中には、研究成果をある程度まとめて国際科学雑誌へ投稿できるよう務める。我々の研究手法上、発表データは組織の多重染色画像が多くなるが、雑誌掲載が認められた場合、カラー印刷にも少なからず出費が見込まれる。この費用にも助成金の使用を予定している。
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