研究課題/領域番号 |
23590245
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
森川 俊一 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (70339000)
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キーワード | 周皮細胞 / 細胞シート工学 / 基底膜 / 血管新生 / GFP / 多重免疫染色 / 電子顕微鏡 / IMARIS |
研究概要 |
移植組織と宿主間の速やかな血流開通は移植の成否に関わる重要な条件である。我々は、最新の再生医療工学技術を用いて作製された立体的人工組織である積層化細胞シートを移植組織のモデルとして、宿主との間の血流開通機構の解明を目指した細胞学的検索を行なってきた。細胞シートはラット左心室壁由来細胞を材料としており、血管内皮細胞もその内に含むが、この内皮細胞は移植前の細胞培養・シート積層化の段階(無血流の環境下)でシート内に血管網を構成する。この細胞シート血管と宿主血管との吻合による「架橋血管」の形成により、宿主からシートへの血流開通が可能となる。 本年度の検索において、我々は先ずこの架橋血管の形成と血流開通が細胞シートの移植6時間後から12時間後までの間の極めて早い時期に起こること、架橋血管において宿主由来/細胞シート由来の異種の内皮細胞がキメラ状に接する部位にadherence junction様の接着装置が認められること、および、架橋血管の壁に密に分布する周皮細胞が細胞シートに由来することを明らかにした。また、これらの周皮細胞が基底膜成分を産生して血管内皮細胞に足場を提供し、架橋血管の形成を誘導するという我々の仮説について、新たな試みである四重免疫染色法により宿主細胞・血管内皮細胞・基底膜・周皮細胞の四つの架橋血管の構成要素を同時に可視化することで、この仮説をこれまで以上に強く支持する所見が得られた。 さらに、架橋血管形成に関してVEGFシグナル伝達経路の関連性が低いことが明らかになったものの、Notch経路についてはその受容体Notch-1が架橋血管や細胞シート内に広く分布することが観察された。Notch経路は周皮細胞遊走の経路であるPDGF経路を制御すると示唆されることから、架橋血管形成部への周皮細胞動員機構の解明に向けた新たな手がかりを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)「周皮細胞が基底膜成分を産生して血管内皮細胞の足場を提供し、架橋血管の形成を誘導する」という我々の仮説について、周皮細胞内における基底膜成分のmRNAの有無についてin situ hybridization法を用いて検索すること、また、周皮細胞内における基底膜成分合成に関わる因子、具体的には、基底膜成分IV型コラーゲンの転写を誘導するSmad1とその制御下にあるコラーゲン特異的分子シャペロンHSP47(Heat Shock Protein 47)の二つのタンパクに注目して、これらの周皮細胞内における有無を検索することを本年度に計画していたが、これらの検索についてはまだその途上にある。 (2)周皮細胞には、架橋血管形成の誘導機能の他、形成後の架橋血管壁を安定・成熟させる機能も有するのではないかと我々は想定している。トレーサーを宿主の血管系に注入した実験からは、移植24時間後までは架橋血管における宿主由来/細胞シート由来の内皮連結部は未熟で透過性が高いものの、移植48時間後までには血管壁の安定性が向上し、透過性も低くなることが観察されている。この架橋血管壁の安定・成熟に周皮細胞が果たす役割について、内皮細胞間接着分子の導入に関わる因子に注目した検索を本年度に計画していたが、この検索についてもまだその途上にある。
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今後の研究の推進方策 |
検索がやや遅れている上記の2つの検索について、速やかに検索を遂行する。遅れの最大の要因は、良質な核酸プローブや抗体を入手できていないことにあるため、それらの入手を先ず急ぎ実行する。 上記(1)については、先ず基底膜成分についての良質の核酸プローブ作製を引き続き行うとともに市販されている良質のプローブを入念に検索して入手する。また、基底膜成分の細胞内合成関連因子Smad1とHSP47についても市販の良質な抗体を検索して入手する。 (2)についても、内皮間接着分子VE-cadherinの導入に関わる脂質分子sphingosine-1-phosphate (S1P)の受容体、S1P1およびS1P3に対する良質な抗体を検索し、入手する。良質なプローブと抗体を得た上で、本年度に確立することができた四重免疫染色法を駆使し、共焦点レーザー顕微鏡とそれに連動する3次元形態解析ソフトウェアIMARISを用いて、mRNAや抗体の分布を詳細に検索する。また、これまでも用いてきた免疫電顕法を最大限に駆使し、微細構造レベルでも検索を行う。 また、これらの検索と並行して、PDGF経路を介する周皮細胞動員機構の理解をより深めるための検索(Notch経路との関連性の検索等)を続行するとともに、当初の研究実施計画に沿ってPDGF経路阻害薬を細胞シートに作用させて周皮細胞を除去した細胞シートを作製し、周皮細胞の欠如が宿主と細胞シート間の血流開通に及ぼす影響について検索を行なう。 以上のように、来年度(最終年度)には今年度の遅れを取り戻しつつ応用的研究も行い、宿主と移植細胞シート間の血流開通機構における周皮細胞の機能的役割(架橋血管形成促進、形成後の架橋血管壁の安定・成熟化)を解明するとともに、臨床応用に役立つ技術(生着率の悪いシートに周皮細胞の前駆細胞を付加する等)の開発につながる成果を得たい。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費は、移植用の実験動物費や、周皮細胞の基底膜産生能力を検索するための核酸プローブおよび免疫染色用抗体類の購入に使用する(核酸プローブを作製する際には、その作製に必要な試薬類の購入費も含む)。また、周皮細胞を除去した細胞シート作製用の動物および試薬類の購入にも使用する。さらに、電子顕微鏡観察に用いる超薄切片作製のためのダイヤモンドナイフ購入(または刃の再研磨)費用としても使用する。 その他費用としては、最終年度を迎えるにあたり、これまでの研究成果を複数の学術論文としてまとめ、国際雑誌に成果発表を行うための英文校正費、論文投稿料、論文印刷費(カラー顕微鏡画像の印刷費も含む)に使用する。また、最終年度に行われる日本解剖学会、日本リンパ学会、日本血管生物医学会でも成果発表を行いたいと考えており、これらの学会参加のための旅費としても使用する。
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