研究課題/領域番号 |
23590251
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
村手 源英 独立行政法人理化学研究所, 小林脂質生物学研究室, 協力研究員 (30311369)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞膜 / 脂質ラフト / 免疫電子顕微鏡法 / フリーズフラクチャー法 / カベオラ / リン脂質 / コレステロール |
研究概要 |
細胞膜は、複数種類の脂質分子種が横一層に並び、それら2つがお互いに向かい合ってできる脂質二重層に膜タンパク質が埋めこまれた構造をしている。脂質二重層に注目すると、2つの層で構成する脂質分子種の比率が異なっていると考えられているが、そのデータは、これまで主に赤血球膜を材料にして得られた結果を様々な細胞に敷衍したに過ぎない。他にも、各層における2次元的な分布に関しては、スフィンゴミエリンとコレステロールが合わさって小さな集積を形成しているというアイデアが提唱されている。この構造体は、特定の膜タンパク質の足場を提供し、複数のタンパク質の離合集散に与ることで、タンパク質複合体が行う細胞膜を介した情報や物質の伝達に重要な役割を果たしていると考えられているが、その実体はいまだ議論の的となっている。これは、脂質二重層の各層において、それぞれを構成する脂質分子種の2次元分布が明らかになっていないことによるものと考えられる。そこで本研究では、SDS処理凍結割断レプリカ標識(SDS-FRL)法を用いて、細胞膜を構成する主要な脂質の分布を電子顕微鏡レベルで明らかにすること、およびそれらの相互関係についての解析に挑むことで、脂質ラフトの実体を明らかにする事を目的としている。本年度は、培養細胞における脂質の分布について解析を行った。その結果、これまで知られているように、カベオラにおいてコレステロールとホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸の強い局在が見られただけでなく、新たにホスファチジルエタノールアミンの顕著な分布が見られた。また、これまで細胞膜外層に存在していると考えられてきたスフィンゴミエリンとホスファチジルコリンが、内層においてカベオラとは無関係に所々で集積を形成していることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、細胞膜を構成する脂質分子種のなかで、主要なものであるホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸がどのような分布をしているかについて解析した。研究課題である、ホスファチジルグルコシド(PG)を抗体で架橋することが、他の脂質分子にどのような影響を及ぼすかを明らかにするためには、架橋する以前にどのような分布をしているかを理解していなければならないためである。 本研究課題を実施する以前に、赤血球細胞膜を材料にして同じ5種類の脂質分子種の検出に成功しており、培養細胞を用いた研究は順調に進展すると予想した。期待に反して、赤血球を材料にした場合と同様の条件では、いずれの脂質分子種においても検出効率が低く、それぞれ至適条件の検討を行わなければならなかった。その結果として、平成23年度は、PGを架橋したときに見られる変化を解析する研究に着手するまでに至らなかった。この点が、研究目的の達成度がやや遅れていると評価した理由である。 しかしながら、細胞膜における脂質分布について、それぞれの分子種について細胞膜外層と内層を分けて調べられた研究はなく、数多くの事実が、本年度に行われた網羅的な解析によって初めて明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究により、培養細胞を用いた場合のSDS処理凍結割断レプリカ標識(SDS-FRL)法による脂質分子種の検出のための条件検討が終了し、細胞膜を構成する脂質分子種の分布に関する基礎的なデータは概ね揃った。その結果、赤血球と培養細胞の細胞膜では、脂質分子種の分布に大きな違いがあることが明らかとなった。 今年度は、これまでに得られた結果を論文としてまとめ、投稿してレビューアーからの評価を得る予定である。どのような批評が与えられるかを予測することは困難であるが、それに応えて早い時期に報告できるようにする。また、ホスファチジルグルコシドや糖脂質GM1を架橋することによって、その他の脂質分子種にどのような局在変化が起きるかを解析する研究を行い、架橋しない場合と比較検討する。これまでの研究の進展により、刺激を与えない細胞の細胞膜外層ではスフィンゴミエリンが、内層では、これまで多くの報告がなされているホスファチジルイノシトール-4、5-2リン酸に加えて、ホスファチジルエタノールアミンが興味深い局在を示すことを明らかにできた。そのため、特にこれら3種の脂質分子種の解析を重点的に推進する計画である。この研究の遂行で予測される困難は特に見あたらないため、順調に結果が得られると予想できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」の項目で記載したように、未刺激の培養細胞を用いた脂質分子の局在解析が難航したため、当初予定していた計画が順調に進展できなかった。このため、未使用額が発生した。一方、研究の進展により、本年度は細胞を急速に凍結するための冷媒として、当初の予定にはなかった液体ヘリウムの購入が必要になった。そこで、未使用分は液体ヘリウムの購入費に充てる。また、当該研究を投稿論文として提出するための投稿費に用いることを予定している。 次年度の研究費の使用計画は、以下のようになる。ホスファチジルグルコシドを架橋するための特異的な抗体は、我々の仲間が作製したため自由に使えるが、糖脂質GM1に特異的に結合するコレラトキシンBサブユニットは市販のものを購入する。ホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸の局在を解析するためのプローブは我々の仲間が作製したため購入する必要はないが、スフィンゴミエリンとホスファチジルエタノールアミンの分布を調べるためのプローブは購入する。さらに、ホスファチジルエタノールアミンに特異的に結合するデュラマイシンは、検出のためにビオチン化する必要があるため、ビオチン標識キットを購入する。それ以外に染色を行うための薬品代が必要である。 細胞凍結の補助として、また凍結割断を行うため、液体窒素を購入しなければならず、その代金が必要である。 細胞を培養するための薬品類とプラスチック類を、買い足す必要がある。
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