研究課題/領域番号 |
23590251
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
村手 源英 独立行政法人理化学研究所, 小林脂質生物学研究室, 基幹研究所研究員 (30311369)
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キーワード | 脂質ラフト / 透過電子顕微鏡 / リポソーム / スフィンゴミエリン / ホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸 / 脂質結合タンパク質 |
研究概要 |
細胞膜は、複数種類の脂質分子種が横一層に並び、それら2つがお互いに向かい合ってできる脂質二重層に膜タンパク質が埋めこまれた構造をしている。脂質二重層に注目すると、2つの層で構成する脂質分子種の比率が異なっていると考えられているが、そのデータは、これまで主に赤血球膜を材料にして得られた結果を様々な細胞に敷衍したに過ぎない。他にも、各層における2次元的な分布に関しては、スフィンゴミエリンとコレステロールが合わさって小さな集積を形成しているというアイデアが提唱されている。この構造体は、複数のタンパク質の離合集散に与ることで、タンパク質複合体が行う細胞膜を介した情報や物質の伝達に重要な役割を果たしていると考えられているが、その実体はいまだ議論の的となっている。これは、脂質二重層の各層において、それぞれを構成する脂質分子種の2次元分布や動態が明らかになっていないことによる。 そこで本研究では、SDS処理凍結割断レプリカ標識法を用いて、細胞膜を構成する主要な脂質の分布を電子顕微鏡レベルで明らかにすること、およびそれらの相互関係についての解析に挑むことで、脂質ラフトの実体を明らかにする事を目的としている。本年度は、様々な濃度比の目的脂質分子種を含むリポソームを作製して、本実験での検出感度について検討した。その結果、ホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸に関してはモル比にして0.1%、その他の脂質に関しては1%あれば検出できることが示された。また、細胞膜外層と内層を模した2種類の脂質組成に、それぞれ同じ濃度の目的脂質分子種を含んだリポソームを作成して検出感度に差が出るかを調べてみたところ、周囲の脂質構成に関係なく検出できることがわかった。これらの結果は、外層と内層の脂質が同程度の効率で検出できていることを意味し、これまで得られた結果に信頼性を与えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、細胞膜を構成する主要な脂質分子種のなかで、これまでに検出できたホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール-4,5-2リン酸が、それぞれ特異的に検出できているか、またどの程度の検出感度で検出できているかについて調べた。さらに、周囲の脂質環境が異なっている細胞膜外層と内層において、仮に同じ脂質分子種が同程度のモル比で含まれていた場合に、プローブとして使用している脂質結合タンパク質が同様に機能できるのかどうかについても検討した。 様々な脂質分子種で構成されたリポソームを用いて、細胞の場合と同様に凍結、割断、金属蒸着、プローブとの反応と透過電子顕微鏡による観察を行い、期待通りの結果が得られた。そのため、研究目的の達成度はおおむね順調であったと評価した。 これらの実験は、当初予定していた計画には含まれていない内容であった。しかし、研究課題である、ホスファチジルグルコシドを抗体で架橋することによって、他の脂質分子がどのように影響されるかを明らかにするためには、プローブの特性を明らかにする必要があった。また、今年度に行った実験により得られたデータは、これまでの研究での検出結果や今後得られると予想される結果が適正であることを示すために、必要不可欠なものであった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究により、培養細胞を用いた場合のSDS処理凍結割断レプリカ標識法による脂質分子種の検出のための条件検討が終了し、細胞膜を構成する脂質分子種の分布に関する基礎的なデータは概ね揃った。また、検出に用いたそれぞれの脂質結合タンパク質の特性について検討したところ、効率よく脂質分子種が検出できており、得られたデータは実際の細胞の状態を相当程度反映した信頼性の高いものであることを示すことができた。 今年度は、これまでに得られた結果を論文としてまとめて再投稿し、なるべく早い時期に掲載が認められるようにする。また、ホスファチジルグルコシドや糖脂質GM1を架橋することによって、その他の脂質分子種にどのような局在変化が起きるかを解析する研究を行い、これまでに得られている架橋しない場合の結果と比較検討する。刺激を与えない細胞では、スフィンゴミエリンが細胞膜内外層で、また、これまで多くの報告により刺激に対して応答することが示されているホスファチジルイノシトール-4、5-2リン酸に加えて、ホスファチジルエタノールアミンが内層で興味深い局在を示すことを明らかにできた。そのため、架橋が実際に起きているかを検討することに加えて、特に上記の3種の脂質分子種の解析を重点的に推進する計画である。この研究の遂行で予測される困難は特に見あたらないため、順調に結果が得られると予想できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」の項目で記載したように、今年度は当初予定していた計画がおおむね順調に進展できた。しかし、昨年度からの繰り越し分があったこと、科研費の使用を予定していた海外での学会発表のための旅費は、他からのサポートが得られたことにより、全体的に見ると未使用額が発生した。平成25年度は、予定する実験を遂行するための物品費として予算を使用するほか、学会発表を行うための旅費、当該研究を投稿論文として提出するための投稿費に用いることを計画している。
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