研究課題/領域番号 |
23590252
|
研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
野津 司 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (30312367)
|
研究分担者 |
奥村 利勝 旭川医科大学, 医学部, 教授 (60281903)
|
キーワード | 消化管運動 / ストレス |
研究概要 |
研究計画に沿い,CRFの消化管運動に対する作用を明らかにした.末梢にCRFを投与すると,胃運動は促進し,この反応は末梢のCRF1受容体刺激によるものであることを明らかにした.また末梢CRF2受容体の刺激は基礎状態の胃運動に変化を与えなかったが,CRFによって引き起こされた胃運動促進効果を抑制し,逆にCRF2の遮断は,CRFによるこの反応を増強した.つまり,CRF2はCRF1 signalingを抑制するcounter-regulation作用を持つことが明らかとなった.これは過度にストレス反応が進行すると,生体の生存に不利益となるためその反応を収束させる系として,CRF2の作用が存在するものと解釈できる.一方これまでストレス,CRF投与により胃排出は抑制されることが知られていた.しかしながら今回の結果は,CRF投与により胃運動は促進しており,胃排出とは一見乖離した状態になることを示したことになる.胃排出は胃収縮の他に,十二指腸運動との同期など様々な要因により決定されるので,今回の我々の結果は,必ずしもこれと矛盾する事実ではない.ストレスにより胃排出が低下し,また今回の実験結果のように,胃収縮は促進するなら,胃内圧上昇によって胃壁伸展がより一層強くなり,食後の消化器症状が強く増強されることにつながると思われる.FDの病態にCRFが関与するのなら,今回の研究結果は,非常に大きな意味を持つ.CRF2受容体刺激薬の投与により,FD症状が改善する可能性を示唆するからである.これらの仕事は,Neurogastroenterol Motil. 2013;25:190でpublishされた. それでは実際に,ストレスを与えたとき,胃収縮はどうなるかを調べたのが,次の仕事であり,ラットにwater-avoidance stressを負荷し,それを評価した研究成果は,現在論文として投稿中である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの2年を併せて,4編の論文publishと1編は現在submit中で有り,科学研究費を有用に使用していることの証明になると考えている.細かい計画は,全てクリアできていないが,仕事を進める上で,予想外の興味深い結果が得られたため,CRF関連の仕事の割合が多くなっている.しかし,論文3編のうち2編はorexin関連の仕事で有り,充分研究計画を遂行できていると考えている.計画通り,orexinの胃,大腸運動への作用とその機序を明らかとし,さらに末梢CRF受容体の胃収縮における役割を報告できた.
|
今後の研究の推進方策 |
ストレスによる消化管運動の変化をこれまで,orexin,CRFを中心に研究を進めてきたが,今後は運動機能だけではなく,内臓感覚機能の評価も併せて進める予定であり,これにこれらのneuropeptideがどのように関わっているのかを明らかにしていく.これは当初の研究計画にはなかったが,研究の進行上,必要な仕事であると判断した.また,CRFに関しては,サブタイプ受容体により,正反対の生理作用を引き起こしうることが明らかになったので,感覚機能でもそのことを確かめたい.すでにこの新しい実験系は確立しており,新しい機器を購入せず実験進行が可能になっている.またこの実験に絡んで,腸管の肥満細胞,セロトニンも腸管感覚に関与する可能性大で有り,さらにストレスによる内臓知覚の変化のメカニズムにも迫りたい.これにより,消化管運動,感覚機能双方からのアプローチが可能となったので,ストレスによって引き起こされる生体変化に対して,より一層多面的なアプローチができるようになった.
|
次年度の研究費の使用計画 |
これまで新しい知見が短期間で明らかとなり,実験を前倒しして行ってきたため,研究成果を学会という場で発表する機会が得られなかった.新たな実験のヒントを得るため,また今回の新知見に対しての討論を行うため,次年度は米国消化器病学会で研究成果を発表する予定である.そのための渡航費用を計上する.その他は,実験試薬等の物品費が主なものとなる.実験の結果により,新たな実験系の調整が必要になり得るので,その時には使用可能な範囲で必要な物品を購入する予定である.
|