研究課題/領域番号 |
23590259
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西木 禎一 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (70423340)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 神経科学 / 刺激分泌連関 / シナプス小胞 / カルシウムイオン / 開口放出 |
研究概要 |
神経伝達物質放出の分子機構を理解するため、Ca2+センサーシナプトタグミンとSNARE膜融合複合体の相互作用を解明することが本研究の目的である。私達を含めいくつかの研究グループが、両者がCa2+非存在下で結合することを示している。これを踏まえ初年度は、両者の結合に及ぼすCa2+の影響について調べた。ラット脳可溶化画分をCaCl2存在下において37℃で反応させた後、抗シナプトタグミン抗体で免疫沈降しイムノブロッティングにより解析した。シナプトタグミンと共沈するSNAREはCa2+濃度依存性(IC50 = 0.65 mM)に減少したことから、両者はCa2+により解離することが明らかとなった。Ca2+を添加後、種々の温度で脳可溶化物を反応させたところ、4℃では解離は生じず、10℃で解離し始め、37℃まで温度を上げるに従い解離が増加した。両者の解離は本研究で用いている結合実験法の解析時間の限界である5分以内にプラトーに達した。シナプトタグミンとSNAREの解離は、in vitroにおいて伝達物質を放出させるBa2+でも生じたが、正常な放出を阻害するSr2+では生じなかった。以上の結果から、天然のシナプトタグミンとSNARE複合体はCa2+依存性に解離することが明らかとなった。このことは、これまで報告されている大腸菌で発現させた組換えタンパク質を用いた結合実験の結果とは全く異なり、それらを基にした従来のモデルに替わる新しい仮説の提唱につながる。これらの成果に加え、次年度以降の研究計画の予備的な実験を行い、予想された結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述したように平成23年度の研究計画は当初の計画通りに進み、予想された結果が得られたため、達成度を上のように判断した。
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今後の研究の推進方策 |
シナプトタグミンのCa2+結合部位に導入した点突然変異の解離に及ぼす影響を調べるに先立ち、組換えシナプトタグミンが天然のものと同様にSNARE複合体へ結合・解離するか調べる。ラット脳から精製したSNAREと、HEK293細胞に発現させた野生型シナプトタグミンを反応させ結合させる。Ca2+添加後反応を続け、解離のCa2+濃度依存性を調べ、前年度に得られた結果と比較する。次に、Ca2+結合に重要なアミノ酸を置換した変異シナプトタグミンをSNAREと反応させ、変異のCa2+依存性解離に対する影響を調べる。 私達は、シナプトタグミンがSNARE複合体の構成タンパク質のうちシンタキシンとのみ結合することを明らかにしている。そこで、シナプトタグミンのSNARE複合体からの解離がシンタキシンからの解離であることを示すために、シンタキシンからのシナプトタグミンのCa2+依存性解離がSNARE複合体と同様に起こることを組換えタンパク質同士の結合実験で示す。 SNARE複合体はシナプス前膜に存在するt-SNAREと、シナプス小胞膜に局在するv-SNAREから構成される。シナプス前膜に小胞がドッキングした後、t-SNAREとv-SNAREは細胞質領域の一部が結合したトランス型複合体を形成する。膜同士が融合した後、v-SNAREはシナプス前膜に移行し3種類のSNAREが同一の膜上に存在するシス型複合体へと移行する。膜から可溶化した溶液中ではシス型と同様な完全に結合した複合体が再現できるのみである。また、シナプトタグミンのCa2+結合親和性は細胞膜の成分であるホスファチジルセリン(PS)により著しく増大する。これらを踏まえ、脂質膜に別々に再構成したt-SNAREとv-SNAREからなるトランス型複合体とシナプトタグミンとの結合・解離についてPSを含む脂質膜存在下および非存在下で調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費を効率的に使用した結果、予算の約8%にあたる未使用額が発生した。この研究費は次年度に繰り越し、来年度請求する研究費を合わせ使用する。成果が順調に得られていることから当初の研究計画に加え、国際学会での成果発表を予定している。
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