研究課題/領域番号 |
23590263
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
五十里 彰 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (50315850)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 腎臓 / タイト結合 / クローディン / 分子複合体 / 転写調節 |
研究概要 |
細胞間タイト結合は薬剤や電解質イオンの透過性を制御するだけでなく、細胞の分化や増殖の調節にも関与する。タイト結合は膜貫通型蛋白質のクローディン、足場蛋白質、転写調節因子などの複合体で形成される。これまでにクローディンは27種類のサブタイプが報告され、クローディンの発現変化と炎症やがんなどの病態との関係が明らかになりつつある。そのため、クローディン発現の調節機構を解明することは、病態生理学的に大変重要である。本研究は、各クローディンに選択的な発現調節機構と機能を解明し、クローディンの発現をコントロールできる薬剤の開発へと展開するための研究基盤を確立することを目的とする。本年度は、クローディン-4の新しい生理機能と発現調節機構に関する研究を中心に進め、以下の研究成果を得た。腎尿細管上皮細胞において、高浸透圧処理によりクローディン-4発現が増加した。クローディン-4の機能を調べるため、クローディン-4過剰発現細胞を作製した。クローディン-4は上皮膜間電気抵抗値を増大させたことから、イオン透過性を低下させると示唆された。クローディン-4は細胞増殖性に影響を及ぼさなかったが、細胞分散性と細胞移動性を低下させた。これらのことから、クローディン-4は細胞間接着を増強すると示唆された。蛍光免疫染色により、クローディン-4はタイトジャンクションにおけるクローディン-1とクローディン-3の分布を増加させることが明らかになった。以上のことから、細胞障害性刺激によりクローディン-4発現が増加すると、細胞間接着力が強化され、上皮膜の構造が強固になると示唆される。また、クローディン-4の発現調節機構を調べたところ、転写調節因子のSp1 とc-Junが関与することを発見した。今後、これらの転写調節因子の発現と病態との関係を調べる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞間タイト結合は膜貫通型蛋白質のクローディン、足場蛋白質、転写調節因子などの複合体で形成される。これまでにクローディンは27種類のサブタイプが報告され、これらの組み合わせの違いにより、各組織におけるタイト結合の機能が変化すると考えられている。しかし、クローディンサブタイプの発現調節機構は、大部分が不明なままである。本研究は、各クローディンサブタイプに選択的な発現調節機構を解明し、クローディンの発現をコントロールできる薬剤の開発へと展開するための研究基盤を確立することを目的とする。今年度は、腎尿細管上皮細胞に発現するクローディン-4の新しい生理機能と発現調節機構に関する研究を行った。その結果、おおむね交付申請書に記載した通りに研究が進み、腎障害性処理によりクローディン-4発現が増加すること、クローディン-4は細胞間接着力を増強すること、クローディン-4の発現増加に転写調節因子のSp1とc-Junが関与することが明らかになった。さらに、クローディン-4の転写調節領域を明らかにすることができたが、転写調節因子の結合部位の同定には至らなかった。一方、来年度に計画していた実験課題の一部を実施することができた。具体的には、クローディン発現のエピジェネティックな制御機構について検討したところ、DNAメチル化やヒストン修飾といった調節機構は関与しないことが明らかになった。そのため、クローディンの発現調節には、転写調節因子の発現が重要な役割を担うと示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はクローディン-4の転写調節因子としてSp1とc-Junの関与を明らかにすることができた。しかし、これらの転写調節因子の相互作用、結合部位を解明できなかったため、来年度は免疫沈降法やクロマチン沈降法を用いて、転写調節因子の作用機序を検討する。また、申請者は腎障害惹起性薬剤や高浸透圧処理によってクローディン-2発現が低下する知見を得ている。クローディン-2発現の低下は、細胞移動性を増加することから、尿細管の再生に関与すると示唆される。そこで、クローディン-2発現の調節機構についても検討する。 膜タンパク質の発現調節には、転写調節機構だけでなく、細胞内トラフィッキング機構も重要な役割を担う。細胞内トラフィッキングの調節には様々な会合タンパク質の関与が示唆されている。クローディンの細胞内トラフィッキング機構を明らかにするため、酵母ツーハイブリッド法により、クローディンの会合タンパク質を探索する。新たな会合タンパク質が得られたならば、遺伝子の過剰発現やノックダウン実験により、会合タンパク質の役割を解析する。以上のように、細胞生理学的、分子生物学的、生化学的な手法を組み合わせて、クローディンの新たな制御機構を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究費の内、45580円を翌年度へ繰り越すことになった。2012年3月30日に第89回日本生理学会大会で研究成果を発表するため、長野県松本市の信州大学に出張した。この旅費として繰り越した研究費を使用する。翌年度に請求する研究費の直接経費は、物品費として115万円、旅費として145,580円、その他として5万円の、合計1,345,580円である。物品費は、分子生物学用試薬、生化学用試薬、抗体、細胞培養器具の購入に使用する。旅費は日本生理学会、日本生化学会、日本薬学会での研究成果の発表に使用する。その他は、印刷費や英文校正料に使用する。
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