研究課題/領域番号 |
23590263
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
五十里 彰 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (50315850)
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キーワード | 腎臓 / タイト結合 / クローディン / 分子複合体 / 転写調節 |
研究概要 |
細胞間タイト結合は薬剤や電解質イオンの透過性を制御するだけでなく、細胞の分化や増殖の調節にも関与する。タイト結合は膜貫通型蛋白質のクローディン、足場蛋白質、転写調節因子などの複合体で形成される。これまでにクローディンは27種類のサブタイプが報告され、腎尿細管の各セグメントにおけるサブタイプの発現様式は異なる。しかし、サブタイプの発現調節機構は不明なままである。本研究は、各クローディンに選択的な発現調節機構と機能を解明し、クローディンの発現をコントロールできる薬剤の開発へと展開するための研究基盤を確立することを目的とする。本年度は、昨年度からの研究を継続し、クローディン-4の新しい発現調節機構に関する研究を中心に進め、以下の研究成果を得た。腎尿細管上皮細胞において、高浸透圧処理によりクローディン-4発現が増加した。このクローディン-4発現の増加は、抗酸化剤の共処理によって阻害されたことから、活性酸素種の関与が明らかになった。さらに、MAPキナーゼ経路の阻害剤であるU0126とSP600125は、高浸透圧によるクローディン-4発現の増加を阻害した。ラットの腎臓においても、同様の結果が得られたことから、我々の発見したクローディン-4発現の調節機構は、生体内の調節機構を反映すると考えられた。MAPキナーゼ経路の下流に存在する転写調節因子Sp1とc-Junの関与を調べたところ、これらの発現を抑制するsiRNAは、クローディン-4発現の増加を阻害した。さらに、クロマチン免疫沈降アッセにおいて、高浸透圧処理によりクローディン-4のプロモーター領域に結合する転写調節因子の量が増加した。以上の結果から、尿細管細胞は浸透圧変化を感知し、クローディン-4の発現量を変化させることによって、細胞間経路を介した電解質イオンの透過性を制御すると示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
細胞間タイト結合は膜貫通型蛋白質のクローディン、足場蛋白質、転写調節因子などの複合体で形成される。これまでにクローディンは27種類のサブタイプが報告され、これらの組み合わせの違いにより、各組織におけるタイト結合の機能が変化すると考えられている。腎臓の尿細管でも、各セグメントにおけるサブタイプの発現様式は異なる。しかし、クローディンサブタイプの発現調節機構は、大部分が不明なままであった。今年度は、腎尿細管上皮細胞に発現するクローディン-4の新しい発現調節機構に関する研究を行った。その結果、交付申請書に記載した通りに研究が進み、高浸透圧処理によりクローディン-4発現が増加すること、クローディン-4の発現増加に活性酸素種、MAPキナーゼ経路の活性化、転写調節因子(Sp1、c-Jun)の核内移行が関与することが明らかになった。さらに、クローディン-4のプロモーター領域における転写調節因子の結合部位を明らかにした。次年度に予定していたクローディン-16発現の調節機構についても解析を行い、新規会合タンパク質の同定に成功し、新しい知見が得られてきている。そのため、当初の計画以上に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、高浸透圧処理によるクローディン-4の発現調節機構の全容を解明することができた。申請者は、腎障害惹起性薬剤や高浸透圧処理によってクローディン-2発現が低下する知見を得ている。クローディン-2発現の低下は、細胞移動性を増加することから、尿細管の再生に関与すると示唆される。今後、クローディン-2発現の調節機構について検討する必要がある。 膜タンパク質の発現調節には、転写調節機構だけでなく、細胞内トラフィッキング機構も重要な役割を担う。細胞内トラフィッキングの調節には様々な会合タンパク質の関与が示唆されている。しかし、クローディンの細胞内トラフィッキングの調節に関与する会合タンパク質は同定されていなかった。申請者は、酵母ツーハイブリッド法により、クローディン-16の新規会合タンパク質の同定に成功した。そこで、遺伝子の過剰発現やノックダウン実験により、会合タンパク質の役割を解析する。今後は、細胞生理学的、分子生物学的、生化学的な手法を組み合わせて、各クローディンサブタイプの新たな制御機構を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の直接経費の内訳は、物品費として105万円、旅費として10万円、その他として5万円の、合計120万円である。物品費は、分子生物学用試薬、生化学用試薬、抗体、細胞培養器具の購入に使用する。旅費は日本生理学会での研究成果の発表に使用する。その他は、印刷費や英文校正料として使用する。
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