研究課題
腎尿細管輸送はNa+/K+-ATPaseを駆動力とするため、駆動の維持に不可欠なK+-recyclingを担うK+輸送路が腎尿細管輸送の律速段階となる。我々は従来の研究で、ラット腎においてはK+チャネルKir1.1が管腔側K+輸送路をKir4.1/Kir5.1が基底膜側K+輸送路を各々構成することを解明していた。近年、Kir4.1が尿細管輸送障害を呈する遺伝性疾患であるEAST症候群の原因遺伝子であることが判明したが、Kir4.1の遺伝子異常がヒト腎臓において尿細管輸送障害を呈するメカニズムは充分に解明されていなかった。 本研究では、ヒト腎遠位曲尿細管においてもラットと同様Kir1.1とKir4.1/Kir5.1が各々管腔側と基底膜側のK+輸送路を構成していることを明らかにした。また、EAST症候群で認めるKir4.1遺伝子異常が、K+チャネルの活性阻害と発現阻害の2つのメカニズムにより、腎遠位曲尿細管基底膜側K+輸送を障害することを明らかにした。この結果により、基底膜側K+輸送障害が管腔側Na+輸送障害と同様に尿細管Na+漏出を呈することを示し、K+-recyclingが腎尿細管輸送の律速段階であることを臨床レベルで確認した。更に、従来の研究でK+チャネル基底膜側発現に関与することを解明していたアンカータンパクMAGI-1aとKir4.1の相互作用障害が、K+輸送阻害の原因となるタイプのEAST症候群があることを明らかにした。この結果は、MAGI-1aが細胞内局在に関与しない臓器においてはK+輸送を障害しないタイプのKir4.1遺伝子変異の存在を示唆する。このタイプは尿細管Na+漏出のみを表現系とすることが推察され、Kir4.1がGitelman症候群の原因遺伝子の一つである可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
腎遠位尿細管における電解質輸送の制御機構を、輸送に関与するタンパク質分子の相互作用を制御する機構の側面から、解明することが本研究課題である。本年度の研究ではゲノムから推定されるタンパク質分子の変異が電解質輸送を障害するメカニズムを解明した。この結果は、遺伝性疾患の病態から制御機構の解明を進めたものであり、研究課題の解明に向けて概ね順調に研究が進行していると考えられる。
これまでの研究において、K+チャネルが尿細管において機能発現するためには機能発現部位の細胞表面直下への輸送後に細胞表面へ輸送する過程が必要であることが明らかになった。今後の研究で細胞表面への輸送を制御する機構の解明を進めて行く。また、生体の電解質恒常性維持においては、腎臓での制御に加え腸管での制御が関与することを示唆する臨床的知見を得ており、電解質恒常性維持機構の解明に向けて腸管におけるK+輸送のメカニズムの解明も進めて行く。
細胞表面へ輸送過程の解明に向け、細胞内小胞輸送の制御に関与することが報告されている細胞内カルシウムに関する研究を計画していた。しかし、当初の研究費が交付予定額より減額されたために、この研究を追加交付後に推進することとなった。これにより、研究遂行に要する費用を次年度に繰り越して施行することとした。K+チャネルの細胞表面へ輸送機構の解明を行う研究に使用する予定である。
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