研究課題/領域番号 |
23590266
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
倉田 康孝 金沢医科大学, 医学部, 准教授 (00267725)
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研究分担者 |
芝本 利重 金沢医科大学, 医学部, 教授 (90178921)
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キーワード | システム生理学 / 非線形力学 / 生物・生体工学 / 生物物理 |
研究概要 |
本研究の目的は、ヒト心筋細胞の電気現象を記述する最新の標準モデルを作成することである。平成24年度は、平成23年度~24年度前半にかけて作成したモデル構築・比較解析用データベース(ヒト及び動物心筋から得られた電気生理学的実験データ・モデルデータ)を基に、新たなヒト心室筋細胞モデル(完成版)を構築することができた。この新しいモデルは、我々が平成17年(2005年)に発表したモデル(Kurata et al., Biophys J 89, 2865-2887)と平成23年(2011年)に発表されたO'Hara-Rudyモデル(O'Hara et al., PLOS Comp Biol 7, 1-29)をベースモデルとし、上記データベースに基づいて形質膜及び筋小胞体における各イオンチャネル・輸送体の動態を再定式化(改良)したものであり、実験データ再現性と分岐解析への適用性に優れた(ヒト心室筋の主な電気生理学的特性を再現できる)最新のヒト心室筋細胞モデルであることが証明された。さらに、新たな心臓部位別イオンチャネル遺伝子(mRNA)発現量データによって心室筋とPurkinje線維におけるイオンチャネル密度の相違点が明らかとなり、内向き整流カリウムチャンネル電流の抑制と過分極活性化陽イオンチャネル電流(ヒト心筋細胞の実験データを基に定式化)の導入における心室筋モデル細胞の分岐構造を解析することにより、過分極活性化陽イオンチャネル電流依存性の自動能をもつPurkinje線維細胞モデルを構築することができた。これらモデル細胞(及び分岐構造解析システム)の完成は、心筋の電気生理学的特性における心臓部位差に基づいたヒト心房筋・洞結節・房室結節細胞モデルの開発を加速させるとともに、心室性不整脈の発生機序・バイオペースメーカーシステム設計等の応用研究を促進させるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度前半までに、ヒト及び動物から得られた主な電気生理学的実験・モデルデータを収集した比較解析用データベースの作成が完了し、新たなヒト心室筋細胞モデル(及びその分岐構造解析システム)を構築することができた。さらに、ヒト心室筋モデル細胞の分岐構造を解析することにより、自動能を有するPurkinje線維細胞モデルを作成することができた(当初は平成24年度中にヒト心房筋・洞結節細胞モデルを作成し、平成25年度にPurkinje線維細胞モデルを作成する予定であったが、ヒト心房筋細胞に関しては電気生理学的実験・モデルデータのさらなる追加収集が必要と判断し、Purkinje線維細胞モデルの作成を優先した)。新たな心臓部位別イオンチャネル遺伝子(mRNA)発現データ等によって心室筋・心房筋・洞結節のイオンチャネル発現量と電気生理学的特性における相違点が明らかとなったため、ヒト心房筋・洞結節細胞モデルの完成にも目処が立ち、本研究全体として順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最新データの追加収集とデータベースのアップデートを継続してヒト心室筋・Purkinje線維細胞モデルのアップデートを行うとともに、心室筋・心房筋・洞結節細胞の電気生理学的特性における相違点を解明し、ヒト心室筋細胞モデルをベースモデルとして、ヒト心房筋・洞結節細胞モデルを構築する予定である。また、モデルシステムのスケール(次元数)が予想以上に大きくなったため、その数学的構造解析に要する時間が増加しており、ハードウェアのスペック向上とGPUを利用した高速数値計算用ソフトウェアのバージョンアップにより、解析効率(数値計算速度)をさらに向上させることを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に予定していたヒト心房筋・洞結節細胞モデルの構築が遅れたため、本年度研究費(消耗品費等)の一部を次年度に繰り越す必要が生じた。また、モデルシステムのスケール(次元数)拡大とそれに伴う数値計算時間の大幅な増大に対処するため、次年度には解析効率(数値計算速度)をさらに向上させるための方策が必要であり、繰越分を含めた研究費の一部をハードウェア(ワークステーション)のスペック向上とソフトウェアの拡充(GPUを利用した高速数値計算用MATLABツールボックスのバージョンアップ)に充てる予定である。また、生理学及び循環器学関連学会において一連の研究成果を発表するとともに、英文論文を一流誌に投稿する予定である。
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