本研究の目的は、ヒト心筋細胞の電気現象を記述する最新の標準モデルを作成することであり、平成24年度までに、心筋細胞モデル構築・比較解析用電気生理学的実験・モデルデータベースを作成し、従来の心室筋細胞モデルをベースとする新たなヒト心室筋・プルキンエ細胞モデルを構築した。 平成25年度は、まず既存の心筋細胞モデルとその根拠となる実験データ(心臓部位別イオンチャネル遺伝子-mRNA-発現量データ)を比較解析することにより、電気生理学的特性における部位差(心房筋vs.心室筋;洞結節vs.心房筋)を明らかにした。平成24年度までに作成したヒト心室筋細胞モデルをベースとし、実験データ比較分析結果を基に各イオン輸送系のパラメータ値を調整して、ヒト心房筋細胞の標準モデルを構築した。さらに、過分極活性化陽イオンチャネル電流をヒト心房筋細胞モデルに組み込んだ後、モデル細胞のパラメータに依存した分岐構造(自動能発現過程における安定性とダイナミクス)を解析するためのシステム(モデルシステムの平衡点-定常状態-と周期軌道-活動電位-及びその安定性のパラメータ依存性変化を表す分岐図を作成するためのプログラム群)を構築した。この分岐解析システムを用い、内向き整流カリウムチャネル電流の抑制と過分極活性化陽イオンチャネル電流の導入における心房筋モデル細胞の分岐構造を解析することにより自動能発現条件(平衡点の不安定化と周期軌道の出現をもたらすパラメータ領域)を決定し、新たなヒト洞結節細胞モデルを構築した。これらのモデルは実験データ再現性と分岐解析への適用性に優れた最新のヒト心筋細胞モデルであり、これらモデル細胞及び分岐構造解析システムの完成は、ヒト心臓モデルの開発、頻脈性不整脈制御理論の確立・バイオペースメーカーシステム設計等の応用研究を促進させるものと期待される。
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