研究課題/領域番号 |
23590267
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
林 哲也 大阪医科大学, 医学部, 非常勤講師 (30257852)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 間歇的低酸素負荷 / 水素ガス / ラジカル消去 / 心リモデリング / 脂質代謝異常 |
研究概要 |
睡眠時無呼吸症候群に伴う間歇的低酸素曝露が心・血管リモデリングを惹起し、その機序には酸化ストレスの上昇が関連する。平成23年度は、間歇的低酸素負荷モデルとして認められている我々の実験系において、ヒドロキシルラジカル除去作用が報告されている水素ガスを用い、低酸素負荷時期に応じて吸入させることにより、スーパーオキシドの発生機序やタイミングを検討し、心室リモデリングや脂質代謝異常に対する効果を評価した。 雄性C57BL/6Jマウスを用い、60 秒毎に酸素濃度 5 %と 21 %を繰り返す間歇的低酸素曝露装置内で日中 8 時間、計7日間飼育し、(a) 再酸素化の時期に一致して1.3Vol%水素ガスを投与する群、(b)低酸素状態の時期に水素ガスを投与する群、(c) 実験期間中、常に水素ガスを吸入する群、の3群に分けて検討した。その結果、間歇的低酸素負荷中の血圧は急激に上昇と下降を繰り返し、心拍数増加を認めた。リポ蛋白分析では、間歇的低酸素曝露によりカイロミクロンと超低比重リポプロテインコレステロールは増加し、(a)群ならびに(c)群では有意に抑制されたが、(b)群では抑制されなかった。心筋横径、血管周囲線維化、IL-6とBNPのmRNA発現量、酸化ストレスの発現量は間歇的低酸素曝露により有意に増加し、それらの変化は再酸素化時の水素ガス投与により有意に抑制された。 以上の結果より、間歇的低酸素曝露にて惹起される心リモデリングは、水素ガス吸入にて有意に予防され、脂質代謝異常も改善された。しかしながら、低酸素状態のみに投与する水素ガスでは効果は少なく、したがって再酸素化の時期に増加するヒドロキシルラジカルが心肥大や血管周囲の線維化に重要な影響を及ぼすと考えられた。また、安全性に問題のない低濃度水素ガスが有効であったことより、今後さらに臨床応用の可能性が広がると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の研究結果は、国内外の学会にて発表し、Am J Physiol Heart Circ Physiol・301・H1062-H1069・2011に掲載され、順調に進展していると考えられる。また、β遮断薬を用いた予備実験結果は国内学会にて発表した。今後は動物の数を増やした上で論文発表を行う計画である。
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今後の研究の推進方策 |
糖尿病マウスを使用する実験系ではβ遮断薬を用いたpilot studyが終了したが、血行動態測定に使用しているテレメーター装置の作動不具合が多く、予備の発信装置の購入を検討している。また、実験動物のn数を増やすために実験の効率化に取り組んでいる。一方脳や腎臓において興味深い結果が得られており、順次学会等にて発表を計画している。 具体的に2 型糖尿病モデル動物BKS.Cg-+ Leprdb/+ Leprdb/J マウス(db/dbマウス)ならびにC57BL/6Jマウスを用い、2-6週間低酸素負荷をかける。治療薬として抗酸化作用とeNOS産生作用が認められているβ遮断薬celiprolol (100mg/kg/day)、あるいはミトコンドリア機能の回復が期待できる5-aminolevulinic acid(100mg/kg/day)を強制経口投与する。 試料の一部は10%中性ホルマリンにて固定、パラフィン包埋し通常の光顕的観察ならびに免疫組織化学(抗4-HNE抗体)を行う。他の一部は0.25%グルタールアルデヒドを含む4%パラホルムアルデヒドにて固定後分割し、一方は脱水エポン包埋し、心筋ならびに腎臓の微細構造を透過型電子顕微鏡(H-7650型、日立)にて観察、他方は-20℃にて低温包埋し電顕的免疫組織化学を行う。心筋線維化の定量はCirc Res 96:148-150, 2005と同様にNIH imageを使用して行う。さらに胸部大動脈はOCT compoundに包埋したのち凍結切片を作成し、Hypertens Res 28:837, 2005の方法にてDHE (dihydroethidium)染色を行い、スーパーオキシド産生量を定量評価する。また低酸素曝露動物においては、脳組織の一部においてFos陽性細胞の低下が確認されており、部位による変化についても検討を加える予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、テレメーター植込みに関連するmicrosurgery技術指導に予想以上の時間を要したため、テレメーター再生費用の予算執行が遅れ、178,738円を次年度に繰越すことにした。追加の動物実験等は当初の計画から変更は予定していないが、非常に興味深い知見が得られているため、追加の抗体試薬等を購入し免疫組織化学を実施する予定である。
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