研究課題
これまでの研究により、間歇的低酸素曝露による左心室リモデリングは、酸化ストレスの増加により引き起こされ、水素ガス吸入によるヒドロキシラジカル消去にて予防可能であることが明らかとなった。一方、選択的アドレナリンβ1受容体遮断薬であるセリプロロールは抗高血圧作用のみならず、抗酸化作用も持つことが報告されている。そこで、セリプロロールによる交感神経抑制作用と抗酸化作用が左心室リモデリングを減弱するかを検討した。8週齢の雄性C57BL/6Jマウスを用い、実験開始1週間前に、右頸動脈にラジオテレメトリー送信機を挿入した。通常酸素濃度下で飼育するnormoxia群と、一日あたり8時間の割合で酸素濃度が30秒ごとに5%と21% に交互に変わるチャンバー内で飼育する間歇的低酸素群に分け、それぞれ10日間飼育した。また、各群に、セリプロロール (100mg/kg/day) あるいはvehicleを1日1回経口投与することにより計4群に分けた。左室収縮期血圧は間歇的低酸素曝露により上昇傾向を示したが、セリプロロール処置により抑制傾向がみられた。一方、右室収縮期血圧は4群間で差はみられなかった。また、間歇的低酸素曝露により左心室心筋横径、血管周囲線維化、酸化ストレスの指標であるDHE蛍光および4-HNE発現量、TNF-α、BNP mRNA発現量、アルギナーゼII発現量の増加、eNOS発現量の減弱が認められた。さらに、間歇的低酸素曝露中に著しい血圧変動がみられたが、これらの変化はすべてセリプロロール処置により抑制された。以上の結果より、セリプロロールによる血圧の変動の抑制、酸化ストレスおよび炎症性サイトカインの減少、eNOS発現減少の抑制が、間歇的低酸素曝露に伴う左心室リモデリングの発症・進展に重要な役割を果たしている可能性があり、臨床的にも極めて重要な知見であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
当該年度の研究結果は国内外の学会にて発表した。また、選択的アドレナリンβ1受容体遮断薬であるセリプロロールを用いた実験結果は、Hypertension Researchにacceptされている。
平成25年度は最終年度になるため、これまでのデータをまとめると同時に、さらに研究を発展させるためのpilot試験を同時に実施する計画である。系統的な研究から、慢性心不全や心筋病変を有する場合には、本実験系における間歇的低酸素負荷は各種病態を悪化させると予想される。臨床的にも重症心不全患者に合併する睡眠時無呼吸は、患者予後を悪化させることも知られている。そこで、心筋症モデル動物を用いて同様の実験を実施し、酸化ストレスやヒドロキシラジカルがいかに作用するかを検討する予定である。一方、低酸素曝露によりVEGF発現が増加することは既に報告しており(Circ J 2996;70:787)、本実験系においてもVEGF受容体阻害薬を併用することにより重要な知見が得られると期待される。なお、一部の脳組織におけるFos陽性細胞数の減少については引き続き検討を加える予定である。
追加の実験動物や抗体、試薬等の購入ならびに論文作成のために使用する。
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Hypertens Res
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Xenobiotica
巻: 242 ページ: 798-807