研究課題/領域番号 |
23590270
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
立山 充博 生理学研究所, 分子生理研究系, 准教授 (30276472)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | GPCR / FRET / kinetics / imaging / receptor |
研究概要 |
Gタンパク質共役型受容体である、ムスカリン受容体I型(m1R)の活性化過程を蛍光共鳴エネルギー遷移(FRET)効率の測定により検討した。本研究では、m1Rの第3細胞内ループとC末端にCFPとYFPを付加したFRETコンストラクトを用いたが、このコンストラクトは作用薬投与によりFRET効率を減少させ、Gqシグナル経路を活性化した。また、これらの作用は濃度依存的であることからも、FRETコンストラクトが機能的であることが示された。このFRETコンストラクトとGqタンパク質を共発現させると、作用薬によるFRET効率の減少が顕著に増強した。これは、Gqタンパク質が活性型m1Rに結合することによって受容体の活性化状態が安定するためと考えられた。そこで、この点を検討するために速度論的解析を試みた。まず、光電子増倍管を用いて高時間分解能検出系を確立し、薬液の切り替えも高速で行えるよう実験系を立ち上げた。このセットアップで記録すると、作用薬除去時のFRETの回復過程がGqタンパク質の共発現により有意に遅れることが明らかとなった。これは、活性化状態から静止型状態への移行が、Gqタンパク質により遅延していることを示しており、Gqタンパク質との結合によりm1Rの活性化状態が安定するという仮説を支持するものである。また、この系に電気生理のセットアップを組み込み、細胞の膜電位を制御することにより、受容体活性化過程が膜電位の影響を受け、脱分極時に活性化が促進されるということを明らかにした。これらの結果をまとめ、現在、投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Gタンパク質共役型受容体のシグナリングについてFRET(蛍光共鳴エネルギー遷移)を利用した高時間分解能解析が可能となった。作用薬との結合により起こる受容体の活性化と作用薬除去時の脱活性化を細胞に発現している状態で、受容体のレベルで解析すること、受容体とGタンパク質の会合と解離をFRETにより検出することは、23年度の研究目標であったが、どちらも成功したといえる。また、われわれは、FRETコンストラクを利用することで、作用薬との結合による受容体活性化状態への移行速度が膜電位により影響を受けるということをより直接的に確認した。膜電位の影響を新たに検討したことと、諸事情(推進方策に記す)のため、他の受容体に関するコンストラクト作成等の展開は十分ではなかった。
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今後の研究の推進方策 |
アセチルコリンの代謝型受容体であるムスカリン受容体1型は、Gqタンパク質との会合により活性型状態が安定するということが明らかとなったが、他の受容体での知見は得られていない。Gqタンパク質との結合により、受容体の活性化状態がどのような影響を受けるのかについて、ATP受容体、ムスカリン受容体3型、サブサタンスP受容体などを用いて調べる。また、差異がある場合は、その差異を生むものは何かなどについても検討したい。Gタンパク質は、GDPに結合し不活性型となりGTPに結合して活性型となる。受容体との相互作用によりGタンパク質は、GTPと結合できるようになると考えられる。そこで、この過程を蛍光ラベルしたGTPと蛍光Gqタンパク質あるいは蛍光Gq共役型受容体とのFRETとしてとらえ、解析する予定である。Gqタンパク質共役型受容体を中心に研究を進めているが、Giタンパク質共役型受容体とのGiタンパク質との相互作用についてもFRET解析を行えるようコンストラクトの作成を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
東日本大震災により全額交付の困難が予想されたため、23年度5月に受理された論文の別刷り購入を控えた。また、耐震工事に伴う研究室の仮移転もあり酵素等の購入を控えて、FRET実験系の立ち上げとデータ取得および膜電位の影響をみる研究を中心に行った。24年度は、多くのFRETコンストラクトを作成する必要があるため、分子生物学実験用酵素の購入を増やす予定である。また、現在投稿中の論文が受理された場合、別刷り購入も予定している。新たに計画している実験、蛍光GTPと蛍光Gタンパク質、あるいは、蛍光GTPと蛍光受容体とのFRET実験用に、蛍光ラベルしたGTPを購入する。
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