研究課題/領域番号 |
23590273
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
篠原 良章 独立行政法人理化学研究所, 神経グリア回路研究チーム, 基礎科学特別研究員 (10425423)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 脳の左右差 / 海馬 / 哺乳類 |
研究概要 |
fMRIのように、イメージングの手法で脳機能に左右差があることを示している実験は数多くあるが、分子レベルから脳機能の左右差に迫る研究は数少ない。当該研究員はこれまで、1,グルタミン酸受容体の左右脳での分布差・2,シナプスの大きさ・形態の左右差をマウスの海馬で示してきた。そのデータを踏まえた上で、分子の側から哺乳類の脳の左右機能差を明らかにしたいと考えている。当研究では引き続きマウス・ラット海馬の左右の機能差を用い、in vivo電気生理および、電子顕微鏡を含む形態学的手法を併用して、哺乳類脳機能の左右差を電気生理、形態的に解析することを目標としている。特に興味深いのは、海馬依存的な課題に伴う左右海馬の活動変化である。そこで、ホームケージでの1匹飼いラット(ISO)と多頭飼いで頻繁に変わる環境下で飼育したラット(ENR)の2種類を用意した後、記録を行った。すると、A)ENRではISOに比較して両側のガンマ帯域のコヒーレンスが極めて有意に上昇した。つまり、ENRでは左右海馬のCA3からCA1へのシナプス入力が協調して生じる。B)右側のガンマ波のパワースペクトル(振幅の2乗)が左側より高かった。そして、ENR群ではCA3から入力を受ける放射状層でさらに左右差が増強した。一方、より錐体細胞から遠く、大脳皮質から直接投射を受ける分子層では、左右差が減弱した。(Shinohara et al., 投稿準備中)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究はウレタン麻酔下の動物で行っているため、脳波(周波数)が起きて行動している動物より遅いという欠点はあるが、動物の運動にともなう電極の揺れなどがないため、記録している場所を左右の電極で厳密に合わせることが可能である。このことが幸いしたのか、動物の学習依存的な左右脳の非対称性を証明することが出来た。学習依存的にラットの脳波が左右差が生じるという論文はないため、新規性の高い報告になると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
電気生理学で得た結果をシナプスレベルで翻訳するために、CA1シナプス形態の差を調べる。電子顕微鏡を用いた予備実験の結果では、放射状層の錐体細胞シナプスの大きさはISOとENRで差がないが(A)、シナプス密度はENRで右が左より多かった(B)。そしてENR左ではISOに比べてシナプス密度が減少していた。この結果をさらに発展させ、海馬のどの部位で環境依存的に差が拡大するのかを網羅的に調べたい。また、学習で放射状層のシナプス数の左右差が生じたことがどのような分子メカニズムに因るのかを明らかにしたい。なお、この左右差の系をさらに検証するためにはfreely movingの状態の動物を使ったシリコンプローブ留置実験が必要だが、形態データによる左右差の検証・確認実験を優先したため、当初より電気生理での実験計画が遅れてしまった。ために、H23年度に研究費に未使用分が生じたが、この研究を平成24年度に行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、現時点でのデータをまとめ、学術誌に投稿することを目標とする。その後は、1、脳の左右での形態変化の差がどのような分子で生じたのかを明らかにしたい。さらに、2,無麻酔の動物での脳波の左右差を実証したい。このため、分子スクリーニングの試薬を購入する。無麻酔の状態の脳波記録では、留置型のシリコンプローブを購入して行う予定である。
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