研究課題/領域番号 |
23590278
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
紫藤 治 島根大学, 医学部, 教授 (40175386)
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研究分担者 |
松崎 健太郎 島根大学, 医学部, 助教 (90457185)
片倉 賢紀 島根大学, 医学部, 助教 (40383179)
橋本 道男 島根大学, 医学部, 准教授 (70112133)
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キーワード | 暑熱馴化 / 唾液腺 / アクアポリン / ドライマウス / 培養細胞 |
研究概要 |
暑熱馴化ラットの顎下腺でアクアポリン(AQ)1および5のmRNAおよび蛋白質が高発現するとする平成23年度の研究結果を受け、本年度はその生理的意義を確認するため、暑熱馴化ラットの唾液腺のコリナージックな刺激に対する応答を検討した。ラットを24℃(対照)あるいは32℃(暑熱馴化)に5日間暴露した。それぞれのラットをウレタン麻酔し、口腔内を綿棒で軽く拭い、脱脂綿を口腔内に設置して10分毎の唾液分泌量を測定した。ピロカルピンの腹腔内投与後、60分間測定を継続した。それぞれのサンプルについて唾液量およびそのNa+濃度と蛋白質含有量を解析した。ピロカルピンによる暑熱馴化ラットの唾液分泌量は対照ラットに比し有意に減少し、唾液の蛋白質含有量が有意に増加した。Na+濃度は暑熱馴化により上昇する傾向にあった。これら結果はAQの1および5が唾液腺に高発現している暑熱馴化ラットでは、コリナージックな刺激に対する唾液分泌応答が低下する可能性を示唆する。しかし、唾液腺には交感神経系の支配もあるなど、唾液腺の生理的応答は外的なコリナージック刺激のみでは検証できない可能性もある。 そこで、本年度の主な研究目的である「温熱刺激によるAQの誘導メカニズム」を検討する第一ステップとして、細胞レベルでの暑熱馴化を検討した。NIH3T3細胞を37℃あるいは39.5℃で1日あるいは5日間培養した。高温で培養した細胞ではp38-mitogen-activated protein kinaseが活性化され、 HSP70、HSP90の発現が増加し、AP1、AQ2、AQ5の発現が増加した。これら結果は、細胞レベルでは高い温度自体がAQを誘導する可能性を示唆する。従って、我々の提唱するドライマウスの治療としての唾液腺の加温は、少なくとも一部は温度の直接作用であり、有効である可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度までの研究結果は平成24年度研究結果の一部を加えて国際雑誌に投稿し、受理され、2013年5月にonlineで公表予定である(Upregulation of aquaporin expression in the salivary glands of heat-acclimated rats. Scientific Reports)。平成24年度に得られた結果の主要な部分は既に国際雑誌で公表済みである(Cellular heat acclimation regulates cell growth, cell morphology, mitogen-activated protein kinase activation and expression of aquaporins in mouse fibroblast cells. Cellular Physiology and Biochemistry)。 暑熱馴化ラットの唾液腺のコリナージックな刺激に対する唾液分泌応答が減弱するという、予想外の結果により、唾液腺への直接のコリナージックな刺激について再検証する必要がでてきた。そこで、平成24年度を同時進行していた細胞レベルの暑熱馴化によるAQの誘導メカニズムの検討に主眼を置いた。このの研究結果は、これまでの結果を合わせ、国際雑誌に投稿することができたため、本年度の「研究の目的」の達成度は遅れてはいないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は予定どおり、自発運動によるラット顎下腺のAQP誘導の検討を行う。すなわち、体温を上昇させる刺激としての自発運動が、暑熱馴化による唾液分泌亢進およびAQPの発現亢進と同様を誘導されるか否かを検討する。 ウィスタ-系雄ラットを用いる。ラットは環境温24℃、明暗周期 12:12時間、自由摂食・摂水下、輪回しつきケージで飼育する。ラットを自発運動が可能な運動トレーニング群と、輪を固定して運動ができない対照群に分ける。自発運動により、深部体温が上昇することをテレメトリーシステムにより確認する。自発運動によるトレーニング効果が表れるとされる4~8週間の運動期間の終了後、運動トレーニング群と対照群の顎下腺のAQPmRNAおよび蛋白質発現量を検討する。必要であればTRPチャネルあるいは平成23年度で検討したAQP発現に関与する転写因子などを解析する。これら結果から、ラットの自発運動が顎下腺の機能に及ぼす効果を解析し、今後のヒトの口腔乾燥症の治療法としての運動の応用について考察する。 さらに、AQ誘導に関与する因子(成長因子や神経伝達物質)を同定するため、幾種類かの培養細胞を用いた研究を追加する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」で示したように、平成23年度~平成24年度におけるラットの個体レベルでの研究結果が予想外であったため、主な研究対象を細胞レベルとした。このため、ラットの飼育費、管理等の経費が予定より少なくなった。 平成25年度の研究費は予定どおり、主に物品費(動物関連費、薬品類(抗体を含む)、実験器具類)に充てられ、また、研究の打ち合わせ、公表、発表のための国内旅費や論文作成関連費用(英文校正、論文投稿費等)にも充てられる。さらに、自発運動動物の管理は連続的に長期間に及ぶため、実験補助者に相当の謝金が必要となる。 平成24年度未使用分は追加する研究(AQ誘導に関与する因子(成長因子や神経伝達物質)を同定するため、幾種類かの培養細胞を用いた研究)に必要な物品費(細胞培養に関する経費、薬品類、実験器具類等)に充てる。
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