研究課題/領域番号 |
23590279
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
谷口 睦男 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (10304677)
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キーワード | 電気生理学 / 鋤鼻系 / 代謝型グルタミン酸受容体 / シグナル伝達 / 相反性シナプス |
研究概要 |
1-(1). 前年度の研究で、mGluR2の作用点は僧帽細胞から顆粒細胞へのグルタミン酸作動性シナプスの前膜側、後膜側双方にあることが示唆された。今年度はDCG-IV(mGluR2作動薬)の後膜側における作用点に関して重点的に調べた。グルタミン酸に対する顆粒細胞の応答はDCG-IVにより185±41 pAから106±26 pA(p<0.01)に阻害された。この結果は、上記興奮性シナプス伝達に対するDCG-IVの抑制作用の一部が、シナプス後機構を介して生じることをさらに裏付けた。 1-(2). 上述の 1-(1)の成果を踏まえ、mGluR2作動薬のDCG-IVが有するEPSC抑制作用が、顆粒細胞膜上のCa2+チャネルの抑制を介して生じているかを検討した。膜電位固定法(保持電位、-70 mV)を用いて顆粒細胞から記録したCa2+電流は、DCG-IV存在下では-0.52±0.06 nAから-0.31±0.05 nA(p<0.005)に抑制された。以上の結果は、DCG-IVの相反性シナプス電流抑制作用の一部は、シナプス後膜上のCa2+チャネルの抑制を介して生じることを明らかにした。 2. 前年度では、僧帽細胞への刺激に電位刺激を用いていた。今年度は、より生理条件に近い環境でのmGluR2の役割を調べるため、僧帽細胞への刺激は活動電位を誘発させる程度に留め、その僧帽細胞の発火に伴って顆粒細胞に生じるIPSPを測定した。Current-clamp法を用いて記録したIPSPは、LY341495(mGluR2阻害薬)により1.98±0.35 mV•sから4.84±1.21 mV•s(p
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、前年度に用いた実験条件よりも生理条件に近い刺激条件を用いた。この場合においても、DCG-IVが上記相反性シナプス電流に対する抑制作用を有することを見出した。シナプス伝達抑制機構としては相対的に確認されることの少ない後膜機構を、mGluR2が修飾していることも明示できた。そして、その後膜機構の一部には、顆粒細胞膜上のCa2+チャネルの抑制によるものであることを見出し、DCG-IVの後膜上の作用点の一部を明らかにした。これらいずれの成果も、フェロモン記憶に必須である上記相反性シナプス電流の特性に関する従来の知見を着実に発展させるものであり、当該研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 当研究室では僧帽細胞の軸索束(外側嗅索LOT)を逆行性に刺激すると、僧帽細胞から顆粒細胞へのシナプス伝達に長期増強(LTP)が誘導されることを、スライス標本からの集合電位記録により見出している。そして、行動薬理学的実験からフェロモン記憶に関与することが示唆されている機能分子のうち、ノルアドレナリンがLTPの誘導に促進的に働くことを見出している。予備実験で、抗利尿ホルモンのバソプレッシンにも同様の促進作用があることを見出した。そこで次年度では、バソプレッシンが相反性シナプス電流に及ぼす影響を、whole-cell法により調べる実験を追加して行う計画を立てた。 2. 相反性シナプス電流に及ぼす各種薬物(DCG-IVおよびバソプレッシン)の影響を、whole-cell法によりLTP誘導前後で調べ比較する。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に得られた僧帽細胞のCa2+電流に関する知見から、当該年度を計画した時点において、DCG-IVが顆粒細胞のCa2+電流の抑制を介して作用している可能性が考えられた。抑制がどのチャネルサブタイプで起こるのかを同定する為、予算申請時に、各Ca2+チャネル特異的阻害薬の代金を計上した。上述したとおり、研究計画通りに、DCG-IVが顆粒細胞のCa2+電流を抑制することを見いだした。しかしながら、前年度の僧帽細胞の場合と同様にして、その抑制作用は統計学的に有意差が認められたものの弱く、これらタイプ特異的なCa2+チャネル阻害薬を使用してもチャネルタイプの同定が困難と考えられた。これらCa2+チャネル阻害薬は極めて高価であることを考慮し、費用対効果の観点から使用を断念した。以上の理由から次年度使用額が生じた。 ・設備備品費として59万円を計上。電気生理測定・解析機器の購入代、修理代、維持費に用いる。 ・薬品は、18万円を計上。各種グルタミン酸受容体阻害薬および作動薬、バソプレッシン受容体阻害薬および作動薬、この他の主なものは電位依存性Naチャネル阻害薬や、細胞内液作成時に使用するMg-GTPなどを購入する。実験動物は、8.0万円を計上。年間に120匹を使用するとして算出した。購入費(自家繁殖を併用して費用の軽減を計るが飼育スペースに限りがあるため半数程度は新規に購入する必要がある)および飼育代(値上がり分を含む)として妥当かつ必要な額を使用する。手術用具は、6.0万円を計上。スライス作成時の刃やメスの替え刃の購入を想定している。実験器具は、8.0万円を計上。ガラス器具(メジューム瓶やメスシリンダ等)の購入に充てる。論文別刷りは、5万円を計上した。 ・旅費等は10万円を計上した。次年度に開催される日本味と匂い学会および日本生理学会での研究成果発表に使用予定である。
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