研究課題/領域番号 |
23590282
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
横山 徹 自治医科大学, 医学部, 助教 (80425321)
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研究分担者 |
南 浩一郎 自治医科大学, 医学部, 講師 (70279347)
上田 陽一 産業医科大学, 医学部, 教授 (10232745)
上園 保仁 独立行政法人国立がん研究センター, がん患者病態生理研究分野, 分野長 (20213340)
寺脇 潔 独立行政法人国立がん研究センター, その他部局等, その他 (20572465)
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キーワード | がん悪液質 / 電気生理 / シナプス |
研究概要 |
24年度は、23年度に引き続き、がん悪液質モデルラットを用いたがん悪液質状態での中枢性体液調節機構の変化についての研究継続と、がん悪液質の病態発現に関連があると思われる物質の正常状態での中枢性体液調節機構への作用について重点的に検討を行った。 がん悪液質について関連がある物質については、キスペプチンに焦点をあてた。キスペプチンが体液調節に重要な役割をもつバゾプレッシンを産生する視索上核大細胞性神経分泌ニューロンにどのような反応を引き起こすかを正常ラットの脳スライスを作成し、ホールセルパッチクランプ法を用いて電気生理学的に検討した。結果として、キスペプチンは濃度依存性に興奮性シナプス入力を増強させること、この反応はキスペプチンタイプ1型受容体の阻害薬投与で減弱することがわかった。これらの事から、キスペプチンは視索上核大細胞神経分泌ニューロンのシナプス入力に関して、キスペプチンタイプ1型受容体を介して興奮性シナプス入力の増強作用を引き起こすことが示唆された。 がん治療では、手術治療等も行われるが、その際に使用される薬剤についての検討も行った。セボフルレンは手術麻酔でよく使用される吸入麻酔薬であるが、この薬剤が中枢の水分調節機構にどの様に影響を与えるか正常ラット脳スライスを用いて検討した。結果として、セボフルレンは臨床で使用される濃度では、濃度依存性に抑制性のシナプス入力を増加させることがわかった。 がん悪液質モデルラットを用いた検討は、昨年度、がん悪液質状態では中枢の浸透圧等への反応が減弱していることを報告したが、この作用が腫瘍細胞を移植してどのあたりから症状が発現するか検討し、移植後2週頃には発現することを改めて見出した。 これらの結果はこれまで報告された事のない新たな発見であり、正常状態との違いを見つけることで、がん悪液質の病態解明や治療方針等に貢献できると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の研究は、ヒト胃がん細胞由来の細胞を使用した、がん悪液質モデルラットを用いて、電気生理学的な検討を主として研究を進めている。これまでに、がん悪液質状態では、浸透圧やアンジオテンシンIIなどの水分調節に関係する因子への反応が正常モデルとは異なっていることを見出した。また、がん悪液質状態に関係している可能性がある因子がこれまでに幾つか報告されていたが、これらの因子が正常な状態で、バゾプレッシンを中心とする中枢の水分保持機構にどのような影響を与えるか報告された事がなかった。今回の研究では、このうち、キスペプチンの中枢性水分調節機構に与える影響について興味ある結果を導き出すことが出来た。現在は、これらを論文等の成果物への作業とともに、がん悪液質モデルラットにおけるグレリン等の摂食関連ペプチドへの反応やキスペプチンへの反応について検討を進めており、研究は概ね順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
がん悪液質に病態発現に重要な役割を果たしている可能性のある物質や、がんの治療などで使用されている薬剤等が、正常状態で中枢の水分調節機構にどのような作用を及ぼしているか分からなければ、がん悪液質での状態での反応か見極めることができないため、24年度は正常状態での反応実験の割合が多くなってしまった。25年度は、24年度の研究で正常な状態で中枢性水分調節機構に影響を及ぼすかわかったキスペプチンをはじめとし、摂食関連ペプチドであるグレリンなどをがん悪液質モデルラットの脳スライス標本に投与して、電気生理学的方法を用いた検討を行う。電気生理学的な検討の他、行動生理学的手法等を用いて、がん悪液質状態では、正常状態とはどのような違いがあるのか、違いがある場合は生体の反応経路のどの部分に違いがあるのか等を検討する。これらの検討より、がん悪液質を引き起こすことに関連がある物質の探索することでがん悪液質の病態解明をすすめる他、症状の進行を遅らせる、改善する薬剤の使用方法を見出すなど、患者の日常生活の改善を目標とした新規治療法に向けた研究を行っていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の研究費の使用計画であるが、ヌードラット等の実験で使用する動物の購入やがん悪液質モデルラット作成に必要な物品の購入、グレリンやキスペプチンをはじめとした試薬の購入、ガラス電極など実験時に必要な消耗品等を購入されていただく予定である。また、現在、これまでの研究結果を、論文などの成果物としてまとめているが、論文作成時の英文校正などの費用としても研究費を使用させていただく予定である。
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