本研究の目的は、2連発の感覚刺激を与える事で得られる2つの大脳誘発電位の振幅の比から、その感覚系全体の不応期を推定し、それを神経活動の新たな指標として用いる事で、神経活動の変化に伴って変動する麻酔深度や睡眠深度の評価方法に利用出来るかどうかを確かめる事であった。当初研究計画に比べ、平成25年度の実施状況報告書で述べたような実施の遅れや内容の変更もあったが、最終的には産業医科大学において安定した実験系の確立が出来た。そこで、麻酔深度と誘発電位の振幅比の変動との関連の検討について実験を重ね、以下のような新しい知見を得ることが出来た。 麻酔深度を深くすると、第1発目の刺激に対する体性感覚誘発電位の振幅は、低くなる場合が多いものの、必ずしも全ての場合に当てはまる訳ではなく、逆に大きくなる場合もあるなど反応はさまざまであった。一方、第1発目の刺激に対する体性感覚誘発電位の潜時については、麻酔深度を深くすると必ず延長し、麻酔深度が浅くなるともとの潜時に戻るパターンを示した。単発刺激による体性感覚誘発電位を用いる場合は、麻酔深度の評価には振幅ではなく、潜時を用いたほうが良いと考えられる。ただし、我々の実験では延長する傾向は示したものの、有意な差は残念ながら認めなかった。一方、第2発目の刺激に対する反応の振幅を、第1発目の刺激に対する反応の振幅で除したものは、第1発目あるいは第2発目の刺激に対する反応の潜時と同様、麻酔深度が深くなると低下し、浅くなると回復する現象を認め、かつその低下は有意であった。このことから、麻酔深度の評価には、潜時よりも、2連発の感覚刺激を与える事で得られる2つの大脳誘発電位の振幅の比のほうを用いる事が、より適切である事が明らかとなった。 この知見は2014年の第91回日本生理学会で報告し、現在論文として報告するためにまとめをおこなっているところである。
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